気付けば夜も更けて来た。

このまま綾子を帰したくない気持ちが募るが、兄と同居している手前もある。
あまり遅くならないうちに送り届けなければならない。
綾子も名残惜しそうにしてくれたが、やはり兄の存在を意識してか帰る事に同意してくれた。

俺は自家用車に綾子を乗せ彼女の兄のアパートまで送り届けた。
綾子を降ろし、俺はそのまま帰らずに一緒について行った。

「こんな時間まで君を引き留めてしまってすまなかった…」

「大丈夫よ…。多分お兄さんも今頃帰宅したばかりだと思うから…」

「でも一言だけ挨拶させてくれ」

「そんなのいいのに…」

「ケジメだ」

「わかったわ。言い出したら聞かない頑固者だものね、直人くんは」

「綾子…」

抱き締めたい衝動に駆られたが、人の家の前でそうもいくまい。
綾子が合鍵を使い開錠すると兄は既に帰宅していた。

「綾?えらく遅かった…、あれ?課長さん?」

「夜分に申し訳ありません…。少しだけ…宜しいですか?」

「ええ。どうしたんですか?とりあえず上がって…」

「いえ、遅いですのでここで結構です。本来ならばきちんとお時間を作って頂きご挨拶をと思っておりましたが…」

「そんなに形式ばらなくても大丈夫ですよ」

「いや…そういう意味ではないのです…。実は…私は妹さんと、その…結婚を前提に交際をさせて頂きたくて…」