だが俺は己の思いを突っ走らせる事は出来なかった。

綾子が…
とても言いにくそうに、自分は未経験なのだと語ったから…

彼女はそれを恥じていたが俺にとっては嬉し過ぎる誤算だった。
そして同時に彼女を大切にしたいという思いもいや増してくる。

綾子をいかに強く愛しているかという事を彼女にわかってもらいたい。
その思いを真っすぐに彼女に向ける。

天の岩戸に籠ってしまった天照が自らの手で岩戸を開き出て来た時のように…
天照が出てくる要因となった神楽を舞った天鈿女(あめのうずめ)に、俺もならなければいけない。

俺の思いが通じたのか、聖域に立ち入る事を許してくれた。
至福の喜びで俺は天にも昇りそうだった。

そして綾子は俺の事を「課長」から下の名前の「直人(なおと)」で呼んでくれるようになった。
さすがにまだ呼び捨てにはしてくれず、さん付けではあるが…。

呼び方が変わっただけでも綾子の中での俺が格上げされたような気がして幸せを噛みしめた。