「課長…その紅茶は特別なんです。特別な栽培方法、そして特別な製法で作られた極上品です。そんじょそこらの紅茶とは比べるべくもない逸品です。その紅茶を飲めば…以前の紅茶の記憶など、容易(たやす)く忘れる事が出来る筈です…」

彼女は…

俺の心に巣食うトラウマまでも退治しようというのか…。
その為に、こんな素晴らしい紅茶を用意してくれたというのか…。

「上杉くん…気遣ってくれてありがとう…。話を…聞いてもらえるか?」

「はい…」

返事をした彼女の顔には並々ならぬ決意のようなものがあらわれていた。
どんな結果になろうとも彼女の想いを全身で受け止めようと俺も決意する。

「単刀直入に言わせて欲しい。俺は…君が好きだ。愛していると思う」

彼女は途端にその瞳を大きく見開いた。

これ以上わかりやすい告白はないだろう。
勘違いも、聞き間違いも絶対にないと断言出来る。

「課長…どうして…?」

「どうして?どうもしない。今言った事は紛れもない事実だ」

「でも…でも課長は…私を突き放したじゃないですか…?」

「それは本当に悪かった。いや、申し訳なかったと思っている。君を受け入れなかったのは気持ちの問題ではなく、俺の年齢が君とは釣り合わないと思ったからだ。君を幸せにしてやれる自信が持てなかった…」

「年齢だけの理由で?」

「それだけじゃない。過去に…君も知っての通りだが、俺は女性を幸せに出来なかった経験がある。それが君にも当てはまらないとは限らないと思った」

「その彼女(ひと)と私は違います…」

「その通りだ。君は君だ。俺に託す事で君という一人の女性の人生が台無しになるかもしれないと考えてしまった…。だから…君を不幸にすることは出来ないと思ったから…君を突き放した…」