食事を終え、本題に入る前に何か飲むかと彼女に尋ねた。

「紅茶を淹れます」

「じゃあ俺はコーヒーを…」

言いかけた所で彼女に制された。

「今日は…課長にも紅茶を召し上がって頂きたいんです…」

「え?」

「お願いします…」

有無を言わせないその雰囲気に気圧され俺は承諾した。

席をリビングのソファに移し、彼女は湯気の立ち上るカップを目の前に置いた。
至近距離でもないのにその芳醇な香りに驚く。

「この紅茶…」

「私が愛飲している銘柄です」

「すごくいい…香りだな…」

「課長は紅茶に嫌な思い出がありそうですけど、それを克服する為にも是非飲んで頂きたいです」

伊藤くんの言っていた通り、やはり彼女には気付かれていたのか…。

昔付き合っていた彼女が紅茶派で、いつも飲んでいたのを思い出すから俺は紅茶を飲まないようにしていた。

「君のおススメなら…」

そう言ってカップに口をつける。

なんだ、この紅茶は?
恐ろしく香りがいいのと、それに…甘い…。

「恐ろしく旨い紅茶だ…」

俺の賛辞に彼女はようやくかすかだが、笑みを漏らした。