「そのお鍋にお味噌を入れるだけです…」

「うん。わかった」

「課長の好きな量でいいです」

「ああ」

俺は味噌漉し器で丁寧に味噌を漉した。
お椀によそって刻み葱を散らす。

食卓に持って行くと、まるで新婚家庭のような食卓が出来上がった。

「生姜焼きか…旨そうだな…」

「ちょっと時間がなかったものですから…。簡単なものばかりですみません」

「とんでもない。充分豪華だ」

「お世辞はいいです」

全く…どうあっても素直になれないんだな。

「俺は世辞など言わない。君もよく知ってるだろ?」

「…まあ…そうですね」

「早速頂いていいか?」

「あ…はい…どうぞ…」

俺はきちんと両手を合わせ、軽くお辞儀をしてから「いただきます」と言った。

最初に味噌汁を啜る。
出汁の香りが鼻腔をついて、ホッとした気持ちになる。

「旨いな…」

「それは課長がお作りになったんですよ」

グググ…

作ったと言っても味噌を入れただけじゃないか…。