いつもの恰好でいいか…。

いや…、でもな…。

俺は散々迷って黒のコットンパンツとデニムシャツの上に、ざっくりとしたセーターといういで立ちに決めた。

外出着とまではいかないがそれほど砕けてもいない。
大切な話をするのにもさほど違和感はないだろう。

部屋を出ると既にいい匂いが漂っていた。

何を作ってくれているんだろう?

期待と、俺の話を聞いた時の彼女の反応への恐れとで、俺の心は少し乱れていた。

リビングの透かしドアの向こうに彼女がいる…。
そう思うだけで俺の心臓は少年のように速まる。

だけど浮かれている訳にはいかないのだ。
彼女の返答によってはいきなり天国から地獄へと突き堕とされるのだから…

ドアを開けると食卓には既に数枚の皿に載せられた料理が並んでいた。

「課長…すみません、まだ…」

言いかけた彼女が俺を振り向いた途端黙った。

え?
なんだ?

やっぱりこの格好が似あってなかったか?

「まだ…出来上がってなくて…」

「何か手伝おう」

「えっ?そんな…課長に手伝ってもらうなんて…」

「俺も料理は嫌いじゃない。独身生活が長すぎて自然に身についてしまった」

そう言って俺が微笑むと心なしか彼女の頬が赤く染まったように見えた。

ダメだ…。
自分の都合のいいように解釈するな…。