上司の品格

「最後?」

「そうだ。プライベートな話は今後一切しない。今夜で…終わりにする」

「触りだけでも今お伺いする訳にはいきませんか?」

「…そんな簡単に話せる事ではないんだ…。気持ちを落ち着けていないと、話せない…」

彼女は再び考え込んでいる。

頼むから承知してくれ…。
俺の決意の程を、例え最後になったとしても伝えさせて欲しい。
神に祈るような思いで彼女の返事を待った。

「わかりました…。一つだけ…条件をお出ししても宜しいでしょうか?」

「え?」

「その条件を課長が呑んで下さるのなら…お話をお伺いします」

彼女の出す条件…
一体どんなものなのだろう?

いや、どんな条件でも呑まなければならない。
死ねと言われれば、喜んでこの命を君に捧げよう。

「わかった。君の条件を呑む」

「後から撤回は出来ませんよ?」

「男に二言はない」

「…わかりました…。条件は…課長のご自宅でお話を伺うという事です」

「え…?自宅で…?」

「撤回は出来ませんよ」

「あ、ああ…わかっている。俺の自宅だな…。だが食事は…どうする?」

「私が作ります」

「えっ!?」

「そんなに驚く事ですか?こう見えてお料理得意なんです」

いやいや…そういう問題じゃなくて…

「課長のお好きな物を作ります。…これが…最後ですから…」

最後…そうだな…。
これが最後になるかもしれないんだな…。

「じゃあ…君の得意料理を…作ってくれないか?」

「え?課長のお好きな物と同じじゃないかもしれませんよ?」

「大丈夫だ。好き嫌いはほとんどない。君の作ってくれる物が食べたいんだ…」

「わかりました」

彼女がどういうつもりで俺の自宅を指定して来たのかはわからない。
だが周囲の目を気にしなければならない店より、自宅の方がいいのかもしれない。

それは裏を返せば、俺が傷つくような結果になるのかもしれないが…

いずれにしても、もう後には引き返せない。
肚を括るしかないんだ。