気を取り直して彼の担当する店舗を何軒かまわる。

痛々しい傷が目立つ彼には主に荷下ろしと台車への積み込みだけをやってもらい、店舗の中の陳列は俺が担当した。

彼のファンだというおばちゃんズが、俺の顔を見て明らかに落胆の表情を見せていたが、体調が悪いと言うと今度は逆に心配をしてくれた。

どこへ行っても軒並み彼の評判は上々で上司としても嬉しく思った。
彼女もそうだが、伊藤くんも着実に得意先の信頼を取り戻していっている。

優秀な部下たちを持って俺も幸せだ。

そう…

彼女は俺の優秀な部下。
そして俺はその優秀な部下を持つ幸運な上司。

これからも、その関係性は変わらないだろう…。

午後からの得意先をまわる前に俺たちは昼食を摂るため通りがかりのファミレスに入った。

口元に怪我をしている伊藤くんはメニュー選びにも四苦八苦している。
料理によっては沁みて痛いと言う彼にグラタンはどうかと提案してみる。

「課長…熱いモノも沁みるんですけど…」

「あ、そうだったな、悪い悪い!」

オムライスで手を打った彼と食事を始めると、あれだけやめろと懇願したのにも関わらず再び昨日の話を持ち出してきた。

「そういえば…アイツどうなりました?落合」

ブッ…!

もうその話は出ないものと思い込んでいた俺は、食べかけのものを噴き出してしまった…。

いつもの俺らしからぬ行動が続く事でいよいよ伊藤くんの疑念が増し、とうとう彼は核心に迫ってきた。

恐れていた質問が、彼の口をついて出たのだ。