俺は彼の若さが羨ましかった。

己の感情の赴くままに突っ走れる無謀さも、眩しかった。

今の俺が彼くらいの年だったら間違いなく彼女を受け入れただろう。

会社での立場も何もかもかなぐり捨ててまっしぐらに彼女に向かって行けただろう。

別に今の地位に固執している訳ではない。

だが立場上、軽率な行動が出来ないのは事実だ。

どんなに彼女を想っていても個人的な感情だけで行動は出来ない。

どの部下にも公平に接しなければならない。

どんなに彼女が愛しくても、表の顔は仮面を被らなければ務まらないんだ。

突然伊藤くんが昨日の一件に触れてきた。

今の俺にとって一番触れて欲しくはない話だ。

昨夜の自分の行動は彼女を助けた事以外後悔しかない。

何故もっと彼女を納得させるような事を言ってやれなかったのか。

何故自分の気持ちを素直に話せなかったのか。

自問自答を繰り返した所で答えなど出る筈もない。

彼女の気持ちが一時の迷いなんかではなく、確固たる(まこと)の気持ちだとわからない今は…

俺はどうする事も出来ないんだ。

例え彼女の気持ちが真実だとしても、俺のような一回りも年上の男に彼女の人生を請け負う事が出来るだろうか。

いや…きっと出来ない。

俺なんかよりもっと彼女に相応しい男に委ねた方が、彼女にとっては幸せなのだ。