昨夜の事が気になって、俺は自席からさり気なく彼女を見る。

いつもと特に変わった様子はない…。

あの後…彼女の心の中でどんな葛藤があったのか…

もしくは葛藤などせずとも既に俺という存在は、ただの上司に戻ったのか。

彼女の様子からはそれを窺い知る事が出来ない。

朝の挨拶は返してくれたが、その後何と言って声を掛けていいのかわからず、俺は手持無沙汰に既に目を通した書類を再び手に取ったりしていた。

そこに昨日世話になった伊藤くんが出勤してきた。

彼の顔を見た俺は…

仰天した…。

いつもの爽やかな二枚目振りが鳴りを潜め…

彼の顔には明らかに殴られたような跡があちこちにあった。

口元の傷跡が一番目立っている。

周りの人間も当然気付いていて、皆驚愕の面持ちで彼を見ていた。

彼の隣にデスクを構える部下が彼に怪我の原因を追究しているが、聞かずもがな…。

だが落合を伸(の)したのは俺で伊藤くんは何もしていない。

という事はあの後彼の顔をあれだけの状態にするような事があったのだ。

確か昨日は彼女と約束しているとか言わなかったか？

じゃああの傷は彼女がつけたのか？

そんなバカな。

いよいよ周りの好奇の目が彼を苛んでいるようで、俺は自分のデスクに彼を呼んだ。