だから俺は何食わぬ顔で出勤した。

彼女は既に自席についている。

人事部からの習慣なのだろう、彼女はいつも始業時刻よりかなり早く出勤している。

まずデスク周りを簡単に掃除し、同じ島の皆の机の下に置かれているゴミ箱の中身を捨てたり、コピー機の用紙を補充したりしている。

そんな事は各営業課にいる庶務係の仕事だ。

多忙な営業の人間がそこまで出来る訳がないと各課に配置されている。

彼女もわかっている筈なのにいつもそれをやっている。

あからさまにやっている態度を見せない上に、誰よりも早く出勤しているから誰もその事に気付いていない。

恐らく知っているのは俺だけだろう…。

そういうさり気ない気配りが出来る女性なのだ…。

やはり彼女は俺なんかが恋慕するには尊すぎる。

俺のような四十男が好きになってはいけない(ひと)なんだ。

フロアの入り口から入ってすぐの所にうちの島があるから彼女の姿は容易に発見出来る。

「おはよう…」

「おはようございます」

彼女はデスクの書類に目を落としたままで返事をした。

やはり俺の方を見てはくれない…。

うちの島には彼女以外誰もまだ出て来てないが、他の営業課の島にはちらほらと人が出勤し出している。

彼女と個人的な会話などそんな空間で出来よう筈もない。