そしてとうとう、俺の決断力の鈍さが彼女に決定的な言葉を吐かせてしまった。

もう自分の事は忘れてくれと…
今まで通り、上司と部下の関係でいようと…

彼女は言った…。

…遅かった…

彼女を引き留める術すら見いだせず、目に見えない縄で体を縛られたように動けない…。

唖然とする俺をよそに彼女は一人店を出て行った。

衝撃は俺の体を椅子に縛り付け彼女を追うよう仕向けなかった。

しばらくして正気に戻った俺が彼女を探す為に店を出た時には、既に彼女の姿はどこにも見えなくなっていた…。

漆黒の闇が、俺を嘲笑うように冷気を帯びて纏わりつく。

体よりも心の方が凍えてしまいそうで、叫び出したくなる。

いっそ、心が凍えてしまえば…楽になるのか?

凍えた心はもう二度と溶かされる事はないのか?

いや…

きっと彼女の姿を見るだけで、いとも簡単に溶けてしまうだろう。

ならば自然に溶かしてしまえばいいものを…

頑なに拒み続ける俺がいる。


どうして…

俺は…大切な人を大切だと言えないのだろう…。

どうして…

欲しいものを欲しいと言えないのだろう。

いつから…

心に蓋をしてしまったのだろう…。