俺が自分の気持ちを封印して、ただの上司としてだけ接するように努めていた時。

彼女が初めて俺に相談事を持ちかけて来た。

落合という取引先の担当者から執拗なイタズラ電話を受けていると聞いた時、自分でも抑えきれないほどの怒りが沸き上がった。

俺が初めてその落合という担当者に会ったのは、彼女が交通事故に遭い、部下の伊藤くんと二人で彼女の代わりに納品に行った時だった。

ただの取引先の担当者にしては、ヤツの、彼女への執着ぶりは異常だった。

だけどその時はまだヤツの本性を見抜けてはいなかった。
彼女から相談を受けて初めてヤツの異常さを思い出したのだ。

彼女は芯の強い性格とは裏腹に、その見た目はとても可憐で儚げだ。

普通の男なら…
彼女の性格を知らない男なら、外見だけでノックアウトされてしまうだろう。

落合も例外ではなかったという事だ。

だがアイツはただ純粋に彼女が好きなだけだとは思えなかった。
一般的な恋愛感情というよりは、どちらかというとパラノイア的なものを感じさせた。

アイツと直接対峙した時その思いは更に確信となった。

アイツの訳のわからない言動で完全に彼女は怯え切っており、俺が一足遅ければ取り返しのつかない事態になっていただろう。