彼女がうちの課に異動して来る前。

事前の挨拶で課長に付き添われてやって来た時。
初めて彼女を見た俺の衝撃は言葉にならない。

なんとも儚げな美しい顔立ちなのに、それに反比例するかのような意思の強そうな大きな瞳。
漆黒の長髪(ながかみ)はきちんと後ろで一つに束ねられていてもその艶めきは眩しい程で。

今回異動して来る職員は容姿端麗が条件であると知っていた筈なのに、彼女に情けないくらい見惚れてしまった。

四十を過ぎ恋愛経験もそれなりにあるクセに、彼女に対して少年のように胸の高鳴りを覚えた。

だが俺はこの課を束ねる課長だ。
個人的感情に流されていい立場ではない。

まして、営業は初めての管理部門から異動して来た彼女に邪な気持ちを抱くなど、言語道断。
要職に就いているという自覚が欠如し過ぎている。

俺は自分を叱咤し、彼女への仄かに芽生えた恋情を封じ込めた。