デスクを片付け終えた私はもう一度フロアを見渡す。

課長のデスクが目に入った時は少しだけセンチメンタルな気持ちに襲われたけれど、涙は出なかった。

…大丈夫…。

仕事は仕事。

きちんと割り切ってみせる。

疲れた足を引きずるようにエレベーターに乗り込む。
一階のロビーは閑散としていてうすら寒く感じられた。

時間外用の従業員通用口に行き、守衛さんに遅くなった事を詫びてドアを開ける。
私の気持ちを反映するかのように足取りも重いまま歩き出した。

トボトボと歩道を歩いていると…

少し先に愛しい人の姿が見えた…。

見間違える筈のない姿。

課長…

課長は着ていた背広の上着を脱いで片手でそれを肩に掛け、端っこを持ちながらやや俯き加減で歩いている。

疲れている様子なのに、その気怠そうな歩き方にすら目を奪われる。

疲労を纏っていても…

精悍な顔付きは変わらないし、かえって憂いを帯びた瞳が大人の男性の魅力を増幅させている…。

そんなトキめいている私の姿など目に入っていないかのように、課長は力なく歩き続けている…。

このまますれ違って終わるのかしら…。

まるで私の初恋と同じ。

何ごともなかったかのようにすれ違って…

知らない顔をして…

元々他人だけれど、今よりも一層よそよそしく、仕事仲間としてだけの関係に戻るの…。

ただそれだけの事。