私のせいですっかり約束の時間に遅れてしまったというのに、少しも私を責めない彼に罪悪感が募る。

課長の電話を受けて何もかも放置したまま慌てて来てくれた彼に感謝しかない。

少しでも早く彼女の元へ行って欲しくて私は彼のデスクの片付けを買って出た。

私の恋は見事に儚く消えたけれど…

伊藤さんの恋は成就して欲しい…。

誰もいないフロアで一人、涙にまみれながら伊藤さんのデスクを片付けた。

誰にも見られていないから…

今日だけは思い切り泣かせてね…。

誰に言うとでもなく、心の中で呟いた。

そう。

泣くのは今日で終わり。

明日からは何事もなかったかのように、いつも通りの私で課長と接していかなきゃいけないの。

私の気持ちは誰にも気付かれてはいけない。

それは課内の雰囲気を乱す事に繋がる。

だから私は傷ついている暇なんてないのよ。

初めての恋に破れて傷つくのは仕方がない事。

誰にだって訪れるものなの。

私だけが可哀そうな訳じゃないわ。

恋愛にはめっぽう奥手だった私が初めて恋情を感じ、初めて自分から行動を起こした。

それだけでも随分と成長したじゃない。

きっとこれからは新しい自分に生まれ変わったように生きて行けるわ!

…そうやって無理やりにでも自分を奮い立たせる。

そうでなければ…

私は私を保っていられない。

まだこの胸に燻り続けるあの人への未練を断ち切れない。