それにしても驚いたわ…。

伊藤さんに電話していた事といい、あの見事な腕捌きといい…。

といってもあまりの早業で見えなかったのだけれど…。

とにかく映画か何かを見ているような華麗なワンシーン。

しかも私を助ける為に…

なんて素敵なの!

勿論ヒロインが私で助け出すヒーローは課長!

ヒロインは無事救出してくれたヒーローと抱き合って涙を流し、互いの愛を確かめ合ってハッピーエンド。



…なんてね…

そんな恋愛ドラマや映画のように行く訳ないわね…。

一時(ひととき)の夢は一瞬にして消え失せ現実に引き戻される。そしてその現実は…
悲しい程ハッピーエンドとは程遠い…。


課長は私といるのが気まずいのかもしれない。一緒に帰社するものだと思っていたのに店長にも報告しなければならないから自分は残ると言った。
そして伊藤さんに私を連れ帰るよう頼んでいる。

一緒に喜びを分かち合いたいのに…

それすらも拒むのは、あなたの気持ちが私にないと理解していいの?

課長の行動が私を一喜一憂させる…。

暴漢からの奪還劇で喜び、課長ではなく伊藤さんと一緒に帰る事になって悲しんでいる…。

恋というのは喜びと悲しみが表裏一体なのね…。

典型的な恋する乙女に成り下がった私は、今更ながらこの恋の苦しさを実感していた…。

だけどいつまでも沈んでばかりいられない。

伊藤さんは私の気持ちなど何も知らないのだから。

帰りの車の中で私は気を取り直し伊藤さんと色んなお話をした。

お祖父さんが元警察キャリアというのも興味を惹かれた。

私があまりにも詳しいので伊藤さんはとても驚いていた。

私からすればこれくらいの知識はマニアとして当然なんだけれど。

そして伊藤さんは今日本当は彼女と約束していた事を教えてくれた。