熊は床に汚く唾を吐き散らす。

「お前は…何で上杉さんと一緒にいるんだ?」

「俺は彼女の上司だ。一緒にいて何がおかしい?」

「いつも一人で来るのになんでお前がいるんだと聞いてる」

「それに答える義務はないな」

「何!?」

熊は獰猛な叫び声をあげて課長に向かって突進してきた。

課長…危ない!

と思ったのは一瞬だった…。

課長はほとんど動かないまま、熊は倒されていた。

何…?どうしたの?

床に蹲った熊はピクピクと痙攣しているように見える。

まさか…死にかけてないわよね?

「あの…課長…この人…」

「大丈夫だ。急所近くを狙ったから少しの間はこのままだがじきに意識がはっきりするだろう…」

あ…

あの一瞬で課長は何かの技を熊にかけた…?

どうやって熊を倒したのか、目の前で見ていたというのに全然わからない。

しかも課長はいつもと変わらない様子で立っている。

そこへ慌てた様子の伊藤さんが走ってきた。

「念のため電話したんだ。バッチリだったな…」

いつの間に伊藤さんに電話をしていたの?

涼しい顔をしたまま、私が気付かないうちに包囲網を張り巡らせていたの?