バックヤードに続く従業員用の出入り口を発見し、急いで中に入った。

久しぶりに全力疾走したせいで息があがっている。

その時…

背中に這い上がってくるような恐怖を感じ振り向くと…

私と同じように息を切らして熊が立っていた…。
熊はかつて見た事がないような鋭い眼光を宿した瞳で私を見据えている。

「なんで逃げるんですか?」

「え…別に…逃げてないですよ?」

私の答えを聞いて熊は眉間に皺を寄せる。

「嘘だ。あなたの目がいつもと違う…」

「そんな事ないです。いつもと同じです…」

あぁ…どうしよう…。

怖い…。
声が震える…。

私の恐怖を感じとったかのように、熊の態度が慇懃無礼になっていく。

「俺はな…ずっとあなたを見て来たんだ…。違いにはすぐ気付くんだよ…」

熊がジリジリと滲み寄って来る…。

私は恐怖が頂点まで達し、脳髄が痺れ、思考も動力も完全に停止していた。

熊の手が私に伸びて来た瞬間…

もはやこれまでと、最後の足掻きで大きな悲鳴を上げた…。

そして両目をきつく閉じて熊を見ないようにした…。

眼前に迫った熊を追い払うなんて出来る訳がない。

ここで何をされるのかわかる筈もない。

課長…

愛しい人の面影を脳裏に蘇らせ私は覚悟を決めた…。

完全に敗北を認めて立ち尽くす。

そこへ、「ガタン!」という大きな音が聞こえた。

恐る恐る目を開くと…

私を庇うように熊に立ちはだかる課長の姿と、荒い息を切らした熊の姿が目に入った。

「課長…」

「すまない…。君を一人にして…」

課長は熊を見据えたまま、私にそう言った。