でも、全く素人同然の人間に、百戦錬磨の営業職が務まるとは思えないけれど…

「課長。第一印象が大切だから容貌が理由の一つだという事は理解致しました。でも一番重要な事をお忘れではありませんか?私は営業には全く素人で、スキルが全くないという事を」

「…誰でも最初は素人ですよ、上杉くん。いきなり現場に出る訳じゃない、うちが行っている研修のようなものがあるでしょう」

「研修を受けただけで仕事のスキルがすぐに身に着くとは思えませんが…」

「ハハッ…。じゃあ何かい?君はうちの業務が全く意味をなさないと思っているの?」

「全く意味をなさないとは…思っておりません…」

「でも今の話を聞く限りでは、それを言っているようなものだと思うよ?現場で経験を積むまでは皆素人。研修したって、机上と実践は違います。後は現場で頑張るしかない」

「…はい…。確かに課長の仰る通りです。今のは失言でした…」

「構わないよ。君にとっては寝耳に水の話だし、動揺は無理もない事です。ただね、君は容貌だけではなく、ここでの実績が評価されての事もあるのです」

「ここでの…実績?」

「そうです。今まで君が教育に携わって来た社員たちが現在の部署で活躍しているという事。君の教育のやり方。それらが全て、君の評価に繋がり、今回の異動の話に繋がったのです」

「そこまで評価して頂いていたのであれば…むしろここに残すという事にはならなかったのですか?」

課長は少しだけ俯いて寂しそうな、憂いのある表情になった。