そして私は初めて伊藤さんの前で素顔の自分を見せた。

少しだけはにかみながら、素直な伊藤さんを見習わないと、と言った。

でも仕事上はあまり緩くなりすぎると今回の二の舞になる恐れもある。

それをそのまま彼に告げるとやはり彼も心配してくれて色々と気遣いを見せてくれた。

その中の最たるもの。

それは彼のお祖父さんが元警察官僚、いわゆるキャリアのOBであり、相談してみるというものだった。

警察小説ファンの私としては身近にキャリアがいるなんて嬉しい驚きだったが、今はそんな事を言っていられる場合ではない。

心強いが頼り切る訳にはいかない。

折角提案してくれたのに申し訳ないけれど、伊藤さんのお祖父さんの事はプラスアルファ程度に考えておくことにした。

私には課長がついていてくれる。

こんな状況でも、それを思うだけで心が浮き立つ。

恋愛で気持ちまで前向きになれるなんて知らなかったわ…。

私って意外と単純なのね。

でも課長…ケンカとかになっても私を守ってくれるのかしら?

伊藤さんも心配してたけど、ケンカと課長が結びつけられないし…。

なるべく課長の傍にいようと思うけど、不意を突かれる事だってあるかもしれない。

そんな私の不安が、次回の訪問で現実になるとは思ってもみなかった…。