私はそんなつもりはなかったと謝った。

課長も冗談だと言って笑っている。

えらく余裕があるのね。

冗談を言えるなんて、あなたはやっぱり私の告白を真に受けていなかった訳ね…。

でもそれは今この場で確かめようもない。

仕方なく口を噤んでいると、ずっと黙っていてもはや存在を忘れかけていた伊藤さんが言った。

「上杉さん…。男が共担でいいなら俺と組みませんか?さすがに課長っていうのはちょっと…マズくないです?」

何がまずいのよ?

余計な口出しは無用よ。あなたは黙ってなさい、ワンコちゃん。

「いえ、伊藤さんと一緒だと逆に反感を買う恐れがあります」

私がそう言うと、伊藤さんには珍しく不快感を露わにした物言いが返ってくる。

彼の意外な反応に驚いた。いつも感情、特に怒りの感情は表に出さないのに。

私はその理由を考えて結論を出した。

きっと伊藤さんは私が田辺さんの事を言っていると思ったのだろう。

でもそれは大きな勘違いで。

伊藤さんが軒並み得意先の人たち、特に妙齢の女性たちから圧倒的支持を得ている事を、私は知っている。

何度か伊藤さんのスケジュールが合わずに私がお邪魔した際も、わかりやすく嫌そうにされた。

しかも私と伊藤さんが変な仲じゃないかと勘繰られた事もあった。

その人たちに反感を買いたくないという意味で言ったのであり、田辺さんの事ではないの。

その人たちにも言ってやりたいわ。
残念ながら私の意中の人は彼ではなく、別の人なのよ、と。

それなら安心?

…とは言えないけれど、どうしても私は課長と一緒に行きたかったから伊藤さんには諦めてもらうほかなかった。