予想通り課長の表情が笑顔から一転した。

それは、まるでさっきまで燦然と輝いていた太陽が突然厚い雲に覆われて一気に周囲が暗くなってしまうような…

そんな翳りのある表情だった。

「なんの事だ…?」

くぐもった声色で私の気持ちも挫けそうになる。

でも可愛げのない私は、この場の空気を読んであげる事は出来ないの…。

「隠してもわかります。課長はあのカップを見た時尋常ではありませんでした。あのカップに何かあると誰でも気付くと思います」

「…君は…人に探られたくない事はないのか…?」

「ありません」

「羨ましいな…、そんな風に言い切れるだけ、君の人生には汚点が一つもないという事か…」

「汚点…。課長はご自分の過去の恋愛を汚点だと思っておられるのですか?」

「上杉くん…。これ以上踏み込まないで欲しい。人は誰にでも触れられたくない傷というものがある…。君にはないのかもしれないが…」

「仰る通り私にはそういうものはありません。でも傷ついたからといってそれが全て間違いだったとは思いません。経験した事は全て無駄ではないからです。その経験から人は学び、成長するのです。今の課長を作り上げたのは全て過去の経験ではないのですか?」

「…君の言う通りだ。俺の過去の失敗が今の俺を作った。どうしようもないくたびれた中年男を、な」