暴力は嫌いだった。
 だから冒険者になる気など毛頭ない。

 私が冒険者学校に通っているのは、学費が安く条件の良い奨学金も出るからだ。魔王の侵略が激しくなっている昨今、冒険者の育成は急務となっている。
 おかげで、私のような貧乏人がタダ同然で学校に通い存分に学ぶことが出来る。もし、仮に平和な時代だったのならば、我が家の家計で高等教育を受けるのは到底無理であったろう。
 学力格差は自分の親がどれほど裕福かで大抵決まってしまう。そういう意味では、不謹慎ながらチャンスを生み出してくれた魔王に感謝しなくてはならない。

 私の目標はこの学校をしっかり卒業し、安定した仕事に就くことだ。冒険者としての地位や名声には一切興味がなかった。
 
 だが、そんな者は少数派だ。
 クラスメイト達は将来、華々しく活躍する未来を夢見ている。我こそは魔王を倒す勇者になるのだと息巻いていた。
 そして、皆が私を見下した。
 さもありなん。元々冒険者などに全く向いていない私の実技は、ひどいものだった。剣を振ればすっぽ抜け、初級の魔法すら満足に使うことができない。いつも落第寸前の落ちこぼれ。
 誰も彼もが、無様な私の姿を笑った。

 まあ、別に構わない。
 外野の声に一喜一憂している暇はない。
 皆が剣と魔法に磨きをかけている間に、私は地方公務員を第一志望にしてせっせと試験対策を行った。

 そして数年後。
 驚くべきニュースが飛び込んできた。
 なんとついに魔王が勇者に討伐されたのだ。世界には平和が戻り、冒険者の需要は急速に失われていった。

 クラスメイト達のほとんどは学校を卒業しても就くべき仕事がなく。
 私は地元の役所に就職が無事に決まった。