店を出て、
歩き始めると同時に彼女に聞く。

『次はどこに行くの?』
『買い物に行こう!』

と彼女。

『どうだろうね。』
『何が?』
『行き当たりばったりの君のことだ。』
『気付いたらたこ焼き屋の前にいるかもしれない。』
『ひどい言われようだね…』

正直、お好み焼き屋に着いたのも、偶然以外の何者でもない。

『何を買うつもりなの?』

と彼女に聞くと、少し考えてから、

『とりあえず服!』

との返答が返って来た。
なんだか、またはぐらかされたような気がする。

その後、
結局僕らは、数店の店を回り、いくつか雑貨と書籍を買った。

最後の店を出た時は既に、空は暗くなってしまっていた。

『あのさ、もうさすがに駅に向かわないと間に合わなくなるんじゃないかな。』

すると彼女は当然のように、

『何言ってるの?』『今日は帰らないよ?』

と、言ってきた。
僕は思わず頭を抱えたくなるが、

『僕は帰りたいんだけど…』

と、せめてもの抵抗をしておいた。

『なら、代金払ってね。』

と彼女が言ってくる。

『ちなみにどのくらいなの?』
『往復の交通費と宿泊費で、
合計〔きっかり12万円〕だね。』

どれだけ、高級ホテルに泊まれば、
そんな額になるのか分からないが、そんな額払えるわけがないので、仕方なく降伏する。

『分かったよ。』

と彼女に返すと、

『分かればよろしい』

と暴君ぶりを発揮しようとするが
相変わらず物理的な問題で、見下ろせてはいない。

僕たちはその後、今日泊まるホテルに向かった。

いかにも高級そうなロビーに入ると、すぐに、彼女が

『鍵もらってくる。』

とだけ僕に言い、フロントに駆けて行く。
彼女は高校生の私服にコンビニ袋という明らかに場違いな服装だったにも関わらず、すんなりと鍵をもらって来た。彼女とエレベーターに乗り最上階に向かい、部屋の鍵を使い、中に入る。
そこには、高校生2人にはもったいないくらいの
光景が広がっていた。

とりあえず近くにあったソファーに腰を下ろすと彼女もそれに続…かずに、ベッドに腰掛ける。

『まさか君とこんなにも早く一夜をともにする日が来るとはね〜。』
『ほぼ強制だと思うし、どうせこの後部屋別れるんだから、共に一夜は過ごさないよ?』
『少し荷物まとめたいから、僕の部屋の鍵渡してもらえる?』

少しの沈黙が流れる。

『まさかとは思うけど、一部屋しか借りてない、とか言わないよね?』
『いや、あのね、一昨日借りようとしたら、
一部屋しか空いてないらしくて…だから今日は相部屋…だよ?』

『…あのさ、君は嫌じゃないの?』
『私は大丈夫!』
『なら…いいや…』

結局ぼくは折れた…

『夕食どうするの?』
『この時間だから、コンビニで何か買って来るよ。』
『何か食べたいものある?』
『分かってると思うけど夕食としてだからね?』
『鮭はらみ弁当』

彼女にしてはまともな回答が返ってきた。

『他には?』

『アイスクリームとソフトクリームと、チョコミント!』

うん。やっぱり全然まともじゃなかった。

『比率おかしくないかな。』
『大丈夫だよ。』

何が大丈夫なのか分からないけれど、
とりあえずコンビニに向かうことにした。
昼間は気づかなかったが、よく見ると、絵に使えそうなビルや風景が所々あった。
そもそも写真を撮ることを忘れていたのか、
無意識のうちに彼女との休日を楽しもうとしていたのかは分からないが、おもむろに携帯のカメラ画面を開き、シャッターを切っていった。

コンビニで目当てのものを探していると、携帯が震えた。
彼女からのメールだろうか。

『ごめん。夕食とった後、そのまま君と話したいから、スナック菓子いくつか買ってきて!』

とのことなので、手に取った鮭はらみ弁当をカゴに置き、菓子コーナーに進む。
いくつか定番と呼ばれるものを買い、コンビニを後にした。

『遅ーい!』

ホテルの部屋に戻ると、暴君モードの彼女が待っていた。

さすがに、写真を撮って遅れた、とはいえないので、

『コンビニが意外に遠かったんだ。』

と言っておく。

『君は何を買ったの?』
『僕は、カットサラダと牛タンと、昆布のおにぎり。』

と、返しながら、おにぎりを手に取る。

『あのさ、一つ聞いていい?』
『いいよー』

『なんで、君のご両親は、僕との旅行を許してくれたの?』

『両親には言ってないよ?』

『え、じゃあ今頃君の家では大騒ぎなんじゃないの?』

『あー、私の親2人とも海外出張に行っててさ、今、家にいないから。』

僕は、諭すように彼女に言う。

『今からでも電話して言うべきだ。』

『大丈夫だよ!』

『本当に?』
『大丈夫。』

いつになく真面目な彼女の口調に僕は押し負けた。