人間関係なんて、あってもなくても変わらない。
人との繋がりなんて、所詮責任感や社交辞令が大半だ。
少なくとも、僕はそう考えている。
だから僕は、ずっと一人だ。
朝、目を開ける。手で目を擦り、その手で目覚ましを止める。体を起こしカーテンを開ける。
空はまだ少し暗い。スリッパを履いて洗面台へ向かい、顔を洗って初めて、朝だ、と理解する。
朝食を食べ、鞄を持ち、玄関の扉を開ける。

バス停で並んでいると、

『おはよう。また寝癖ついてるね。また徹夜?』

と君が声をかけてくる。内心(余計なお世話だ)と思いながら、

『気のせいだよ。』

と僕は返す。
最近、同じクラスの水原楓が、やけに絡んでくる。正直、放っておいて欲しいというのが本音である。
教室に入り窓側の後ろから二番目の席につく。
鞄の中から筆箱とスケッチブックを取り出し、
書きかけのページに目を向け製図用のシャープペンシルを走らせる。今日も君は、そんな僕の前に座る。
『ねぇ、何描いてるの?』
『別に、ただの風景画だよ。』
『どこの?』
『家の近くの川。』
『どうして?』

よく、こうもそんなに話したことも無い人に、質問できるのか、という疑問を払いのけ、

『単なる気まぐれだよ。』

と、僕は答えた。こんなやりとりを、もうほぼ毎朝している気がする。何が楽しくてこんな事をしているのか、僕には見当もつかないが…

放課後、例の川の河岸に行き、何枚か写真を撮り、帰宅した。
朝、目を開ける。体を起こし、カーテンの紐を結ぶ。そして、雨が降っていることに気付く。
洗面台へ向かい、朝食を食べる為に、食卓に座り、テレビをつける。ニュースキャスターの、
(今日は、全国的に雨になりそうなので、傘を持ち歩くと良いでしょう。)という声を聞き、僕はなんとなくため息を吐いた。今日は絵の題材の写真を撮りに行きたかったのだが、この調子だと行けないだろう。
次の題材を考えながら、いつものようにバスに揺られ、教室に入り、いつもの席につく。
偶然にも今日は、今描いている絵を仕上げる日だ。手を止め、少し絵を眺めていると、待ってましたとばかりに、

『完成したの?』
『次は、何を描くの?』

という声が頭の上から降ってくる。

『だから、単なる気まぐれだよ。』

と、僕は出来るだけ素っ気なく返す。
そして、

『でも、当分は絵は描かない。』

と付け加える。案の定、

『どうして?』

と彼女が聞いてくる。

『明日から考査期間だから、題材の写真を撮りに行けないんだよ。』

と僕は返す。そして、
これで少しくらいは彼女も僕に近づかなくなるだろうと思い、少し安心する。次の瞬間、彼女から思いがけない言葉が紡がれた。


『じゃあさ、"私"を描いてよ。』


一瞬何を言われたか分からなかった…
『ごめん。もう一回言ってくれる?』

つい、そう聞き返してしまった。すると彼女は
少しだけ大きな声で言ったつもり、だったらしい。

『だから、題材が無いなら"私"を描いてよ!』

水原の声が教室に響いた。クラスでの彼女は、
いわゆる人気者。周囲の目が一斉に僕らの方を向いた。仕方なく僕は、

『分かったよ…』

と返した。いや、返すしかなかった…