「平気か？」

　立たせようと社長は手を差し出したが金我がいなくなったとは言え、そう簡単に恐怖が払拭されるはずもなくイトカはソファで身動き出来ずに震えたまま涙を流している。

「平気……なわけないよな。遅くなってすまない。もう大丈夫だ……」

　イトカの隣に腰掛け、優しく頭を撫でる社長には先程までの殺伐とした雰囲気はなく、どこか穏やかに優しさが込められているように思えた。

「ごめん……なさい。私……」

　そんな社長を見て安心したのかなんとか声を出るようになり、謝罪の言葉を口にする。

「……部屋に戻るぞ」

　このままここにいても震えは治まらないと判断した社長は、イトカを抱き抱えまわりに目もくれず社長室へと戻っていく。

「どうして私があの場所にいると……？」

　社長室のソファに座らされ少し落ち着きを取り戻したところで、社長に疑問を投げ掛けた。

「鮫島に聞いた。最初は頑なに言おうとしなかったが、お前の身に何か起こるって予感したんだろ。『助けてあげてください』って話してくれたんだ」

　犬猿の相手からのまさかの助けだった。