「その女から離れて頂けませんか」
聞き覚えるある声にゆっくりと俯いていた顔を上げると、目の前にはシバ社長の姿。
相当怒っているのか睨むように目を細め、低く冷たい声で言う。
「それ以上彼女に手を出すのは、いくら金我様でも許す事は出来ません」
と―――
「柴永社長。私だとわかっていながらそんな態度を取るとは。この娘にそこまでの価値があるとは到底思えないのだが?」
イトカを見下しながらも触る手は止めようとせず、それどころか太い指に髪を絡める。
「まぁ……この身体くらいなら少しの値打ちはありそうだがな」
人身売買を思わせる発言で誹謗し、まわりからは笑い声が聞こえてくる。
イトカは恥辱に耐えるしかなかった。
そんな中、痺れを切らした社長も黙ってはいない。
「では彼女が私の”婚約者”だとしても、まだそんな事が言えますか?」
社長の言葉にイトカは目を見開いた。
今確かに”婚約者”だとハッキリ聞こえたから。
「婚約者……だと? そんな話は聞いてないぞ」
金我の態度が変わった。