楽しそうな場は一変。声を掛けられた鮫島は金我の姿を見るなり、酷く怯えた表情で後ずさりしてしまう。
「そんなに警戒する事はない。怖がらなくて良いぞ。何もしないよ」
誰が見たって明らかに嘘だ。口元はニヤっとし瞬き1つせずギラギラした目は、下心しかない顔つきだ。
「あの……社長が待っているので……」
「柴永社長なら、先程、別の者に呼ばれてここにはいないのだよ」
言いながらジリジリと鮫島に近寄ってくる。
「今日のキミは着物が似合って凄く綺麗だ。なんとも美しい。もっと良く見せてくれ」
鼻息を荒くしながら今にもその体に触れようとし、鮫島は金我の行為に涙を浮かべて震えていた。
そんな光景を見ないフリなど出来なかったイトカ。
「金我様。恐れ入りますが、その辺りで止めてください」
鮫島の前に立ちはだかり、彼の行為を強引に中断させたのだ。
「なんだね、キミは」
邪魔に入られた事が気に食わなかったのか、鋭い目つきで見下してくる。
「私は……」
いきなり飛び出したはいいが、立場を名乗れるような身分がない事を思い出した。