高校二年になってから3ヶ月の月日が経過した。正直言って、高校は退屈でしかない。毎日毎日、やりたくもない勉強をする上に、授業で興味のない話を延々と聞く、さらには話す相手もいないボッチからすると退屈で仕方ない。友達を作ればいいんじゃないか、と唯一無二の知人に言われたが、今更グループに入りに行くのも気まずいし、そもそもそんなコミュニケーション能力がある訳でもないし、なにより、僕が幸せを求めていいはずがない。ただ、そんな中、1人、クラスでも特に存在感のある奴がいた。名前は、月弥葵というらしい。
姉が死んだ。僕が中学三年生の頃の出来事だった。生まれつき体の弱かった姉は、病気にかかり、やがて衰弱しながら死んで行った。姉の死ぬところを僕は目の前で見ていた。だんだんと呼吸が荒くなっていく姿、腕に刺さっている何本もの管。徐々に数値が減っていくECG。そして仕舞いにはもう殆ど動かない、姉の体。そんな姿を見ていると、気が狂いそうだった。どうして、姉さんがこんなめに合わなければならないのかと、何度も神を呪った。姉が笑っている未来を、望んだ。しかし、その望みは叶わず、ピーーーというけたたましくなる甲高い音とともに、姉は、息絶えた。
たまに夢に出てくる。元気だった頃の姉が、衰弱しながら暗い場所に歩いていく。それなのに僕は、ずっと同じ場所に留まって、姉を見ていた。そんな夢を。恐らくこれは僕の罪悪感なのだろう。衰弱していくのを目の前に見ていたのに、僕は何もしなかった、ただ、神を呪って、幸せを願ってばっかで、努力なんかしないで、見ているだけだった。僕が夢で止まっているのは、そういうことなのだと思う。だから僕は、姉が死んだその日から、人との関わりを極力避けた。N極とN極は退け合うように、S極とS極は退け合うように、僕は人を避けた。姉が本来味わうはずの幸福を、幸せを、楽しさを、僕が味わっていいわけが無い。だから僕は、家族との関わりも極力避けた。高校生ながら一人暮らしも始めた。不安が無かった訳でもない。それでも、姉よりが味わった不安よりはマシだったはずだ。
いつものように、夜風にあたるために僕は家を出て外を歩く。夜風が気持ちいい。なんてことを言ったら姉は怒るだろうか。私があんな苦しい思いをしてたのにと、怒るだろうか。そう考えると、もう家に帰った方がいいのかもしれない。帰って、早く意識を落とした方がいいのではないだろうか。そんなことを考えながら僕は公園を通る。誰かがベンチで座っている。座っている?いや、あれは、横になっている。ホームレスだろうか。どちらにせよ僕には関係ない。そのはずなのに、僕の足は、ベンチに横たわっている人の方へと、歩を進める。「こんばんは、どうしましたか」そこまで言って僕は言葉を失う。なぜ、こいつがここにいる?ベンチに横たわっていたのは、月弥葵だった。制服のまま、ベンチに横たわっている。寝ているのか?いや、寝ているわけが、、、そんな思考を巡らせていると彼女ーーー月弥葵が言葉を発す。「こんばんは。どちら様でしょうか」そんな家に訪問者が来た時の接し方をされても困ってしまう。なにせここは、公園なのだから。こんな所が家だと言われても僕は信じることはできないだろう。そんなことを考えていると月弥葵は、こちらに振り向く。振り向いた瞬間、驚いたと言ったような顔をする。ーーーーこっちのセリフなんだがな、、、「えーっと、たしか、、、同じクラスの、、」「月ヶ瀬翔也」「あー!そうだ!えーっと、月ヶ瀬、、し、しょ、なんだっけ?」覚えてなくて当然だと、僕は言う「月ヶ瀬翔也だ」「あー月ヶ瀬翔也くんね、覚えたよ!」覚えるまでの過程が凄く失礼なのは置いておこう。「で、そんな陰キャでひとりぼっちの月ヶ瀬翔也くんはこんなところでどうしたの?」悲しい。ただただ悲しかった。「こっちのセリフだよ、こんな夜中に外で何してるの」彼女は気まずそうにこちらを見ながら「家がないんだよね。。。」と告げる。そんなことを言われてああはいそうですかと、言えるわけもない。とはいえここにこのまま置いて行くのも気が引ける。「僕の家泊まる?」そう告げたあとの彼女の顔はなんとも言えない顔だった。月光のせいか少しばかり綺麗に見える。「何考えてるの?」妥当な反応だろう。ろくに話したことも無い、名前も覚えていないクラスメイトに家に泊まるか聞かれているんだ。当たり前の言葉だろう。僕だってそう言うし、誰だってそういう。そんな簡単な問題、考えればわかるはずなのに、僕は何を考えて発言したのだろう。「困ってそうだったから。」と端的な言葉を放つ。「なにそれ」と言いながら彼女は苦笑する。その顔はさっきよりも、何倍も美しかった。それと同時に虚しくもあるように見えた。「じゃぁ、お言葉に甘えちゃおうかな」と、彼女は申し訳なさそうに言う。この会話の中で信じれる要素なんてあっただろうか、なんてことを考えながら僕と彼女は家へ歩を進める
家を片付けといてよかったと思ったのはいつぶりだろう、何週間、何ヶ月、もしかしたら何年ぶりかもしれない。僕はアパートの2階に住んでいる。一人暮らしするには十分な設備があり、広さがある部屋だ、初めて見た時はもう少し広かった気もするけど、自分の荷物が嵩張って来たせいなのか、それとも慣れてきたせいなのかは分からないが、少し狭く感じる。家を出た時に電気を消すのを忘れていたらしく、部屋の明かりはついていた。弱々しいがどこか安心する、少し橙色の色味を帯びた白の光だ。なにか中学校の技術の授業でやった記憶があるが、正直そんな覚えていない。
「とりあえず、そこら辺座ってよ」と言いながら少し廊下を進んだところにある部屋の机を指さす。彼女は丁寧に靴を脱ぎ、踵を揃えてお邪魔しますといいながら奥の部屋にいく。僕も後ろをついて行き、彼女が座ったところの横に座る。少しの間沈黙が流れる。その沈黙は決してきまづい訳でもなかったしどちらかと言えば心地よかった。そんな沈黙を破るように彼女は言葉を発する。今更気づいたが、凛としていて、聞きやすい声だった。「ありがとう。こんな意味わからないやつを泊めてくれて」「さっきも言ったけど困ってそうだったから助けた、それだけだよ。」なにそれといいながら彼女は笑う。また少しの沈黙が流れる。少し経ってから彼女は「なんで夜中に公園に居たのか、聞かないの?」それは僕が自分から会話に出すのは辞めておこうと思ってた話題だった。過去になにかあった人から聞くつもりは無いし、聞いてもどうしようもない。「別に聞くつもりは無いよ。確かに少しは気になるけど、君にとってそれが辛いことなら僕は聞かないし、言わなくていい。」彼女は優しいねといいながら、また笑う。優しいねなんて言われたのいつぶりだろう。他人のことは避けてきたし、関わりたくなかった。また失いたくなかったから。彼女はどこを見て優しいと言ったのだろう。僕にはわからなかった。「昔ね、私にも家族がいて、兄妹がいた。でも、父が交通事故で亡くなって、母も私たちを残して後追い自殺しちゃったんだ、兄と妹は鬱病との合併症で衰弱死した。その時私、中学生でこの先どうしたらいいか分かんなくて、色んな家に泊まらせて貰いながら生きてきた。おじさんだったり、おばさんだったり、優しい人も居たけど、大半は体目当てだった。こんな辛い思いするならもういっそここら辺で家族の後を追うべきかなって、そう思いながら高校で過ごしてた。でも多分、これが間違いだったんだと思う。みんなに嫌われないように明るく接してたらいつの間にか周りに友達が増えてきて、多分周りから見るとスクールカーストの上位に入っちゃったんだと思う。だから私が死んだらどれだけ悲しむか、私にはよくわかってたから、逃げることも出来なかった。そこから私の世界には、心には色が無くなって、生きる意味がわからなかった。」彼女は複雑な、悲しみや、虚しさや、怒りまでも含んだ表情を浮かべた後、なにか思いついた顔で僕のことを見た。どうしたのだろうと思いながら首を傾げると、彼女は、「私の生きる意味、一緒に探して!」と僕に頼んできた。頭の整理が追いつかない。当然だ、こんな色んな話を急にされてどうすればいいんだ。「ごめんね、急にこんなに話して。答えが出るまで待ってるから、ゆっくり考えて。」正直、今までの話を整理すると、僕にはメリットがない。だからといって、断る訳にも行かない。少し好奇心が湧いたせいもあるのか、僕は「わかった。君の生きる意味、一緒に探したい。」と言う。すると彼女は「君じゃない!月弥葵!」と言われたので僕は渋々「わかったよ。月弥。」というと彼女は満足したような顔で、頷いた。「取り敢えず、今日はもう遅いから、早く風呂に入って寝な。」という。気付けば時計は夜11時を指していた。
人気配信アプリの配信者が亡くなった。というニュースが回ってきたのは、月弥葵が僕の家に来てからわずか一日半のことだった。最初は学校で小耳に挟んだ程度だが、その配信者がまだ若かったこと。ネットでの誹謗中傷が原因で自殺したこと。この2つもあり、僕はそのニュースについて調べた。もし、僕が誰かに自殺をしたい。そう言われたのなら、僕はその人に、死ぬなとも言わないし、死ね、とも言わないだろう。ただ、話を聞いて、僕が、君と親友になるまで、待って欲しい。と言うのだろう。もしかしたら、もっと違うことを言うのかもしれない。けど、本質は変わらない。もし、1年間で10人が自殺している崖があったとしても、僕はそこに、柵を作ろうとは思わない。よく、自殺するなんて逃げだ、逃げるな。という人がいるのだが、それは根本的に違うと思う。自殺したがってる人は、逃げるんじゃなくて、逃げれなかったんだ、一見同じこと言ってるようにも見えるかもしれない。けど、違う場所から見れば、違う。逃げるつもりなんて無くても、逃げれなかったら、全員、最終的にはその道に辿り着く。きっと、自殺した人は、他の道が見えないほど、追い込まれているんだ。だから僕は、その人に、生き地獄に居ろ。なんて残忍なことは言いたくない。ただ一言、言葉を添えるだけだろう。それと、たまに、自殺した人を、あいつが弱いからいけない。と攻める人がいる。だがそれも、根っからみたらまた違うだろう。もしいじめで、その人が死んだんだとしたら、いじめなければ、自殺なんて考えなかった。それなのに、弱いから、なんて一言で片付けるのはあまりにも違っているだろう。昔、家で猫を飼っている女の子が、猫の臭いがするせいで、いじめられ、自殺したというニュースを見たことがある。それだって、臭いなんて気にしなければ、彼女は死ななかったはずだ、 こういうのを、バタフライ効果、又はバタフライエフェクトというのだろう。誹謗中傷で亡くなった配信者もそうだ。元々誹謗中傷なんてしなかったら、もっと人を笑わせて、楽しませて、誰かを救えたかもしれない。ただ一言、死ね、この一言だけで、人が死ぬ。こんなことを、人に言ったら偽善者だと思うだろう。実際そうかもしれない。でも、今こうして、僕たちがなんの問題もなく、息をしている一瞬でも、人は自殺を覚悟する。人間とは、そんな、愚かで、阿呆で、それでいて、生きようとする姿は美しい。そんな、生き物なんだ。
「ねぇ、買い物行きたい!!!」朝食を食べながら急に言われたものだから、動揺してしまった。それにしても、朝食をまともに食べるなんていつぶりだろうか、僕自身料理とかはしないタイプだし、一日一食あればいいと思ってるので、朝食は基本取らない。なぜ今日取っているのかと言われると、簡単に言うと朝起きてきたら料理が置いてあったからだ。彼女はもう机に座って食べる準備をしていた。僕も席に座り、いただきます。と言ってから彼女が用意してくれた食べ物を口に運ぼうとした時に、そんなことを言われた。今日は土曜日だしゆっくりしてたかった気分だったが、彼女の真っ直ぐな目を見るとそうもいかないみたいだ。「いいよ。行こうか。」正直県外と言われなければどこにでもついていくつもりだ。いつからだろう、人と出かけるなんて。姉は、怒るだろうか。それとも、私も行きたかったなんて、悔し泣きでもしてるだろうか。「やった!」彼女はそう言いながら、笑みを浮かべる。すると彼女は朝食を食べ終わり、食器の片付けを始める。それに便乗して僕も食器の片付けをする。彼女に食器洗うよと言ったのだが、泊めてもらってるんだからこれぐらいはしなきゃと綺麗にかわされてしまった。食器を洗いながら僕は彼女に何を買ってあげるか悩む。僕自身お金はあんまり使わない方なので、両親から毎月貰ってるお金が数十万は溜まっているはずだ。取り敢えず服だよな。などと考えていると彼女が、「早く!置いてくよ!」と言うものなので急いで準備して僕も玄関へと向かった。
僕の住んでいる地域は都会といっても差し支えない場所なので店には困らなかった。彼女は終始はしゃいでいたが、途中で疲れて話題もなくなったのか今日良い天気だね。と、会話に困った時に使いがちの言葉BEST5には入るだろう言葉を言った。今日は快晴で、気温も低からず高からずといった感じだ。これで少しくもっててくれれば永遠にその天気で良いと思えるぐらいにはいい気候状態だろう。すると彼女は「ねぇお腹すいた、あれ食べよ!」と街にあったたこ焼き店を指さして言う。昔食べたような記憶はあるが、あまり覚えていない。そもそも本当に行ったかすらも分からないし、それが分からなければ味すらも覚えていない。彼女は僕の手を強引に引っ張りながら店に入っていく。僕は苦笑いしながら、店員さんにたこやきを2つ注文した。色々な種類があって美味しそうだったが、考えて後ろがつっかえたら嫌なので、よく家でたこ焼きを作った時に食べるような味のたこ焼きを注文した。たこ焼きを夏に食べたいかと聞かれたら僕は速攻でいいえと答えるだろう。何故暑いのに、熱い食べ物を口に入れなければならないのだろうか。甚だ疑問で仕方ない。彼女と他愛もない会話をしながら、たこ焼きを頬張る。今日は気温もそこまで高くないせいか、夏にたこ焼きを食べるのも悪くないなという気がしてきた。彼女は、たこ焼きを食べ終わったと同時に「花火したい!」と言い出した。僕自身別に花火が嫌いなわけではないので、いいよ。と、端的な一言で返事をした。
姉が死んだ。僕が中学三年生の頃の出来事だった。生まれつき体の弱かった姉は、病気にかかり、やがて衰弱しながら死んで行った。姉の死ぬところを僕は目の前で見ていた。だんだんと呼吸が荒くなっていく姿、腕に刺さっている何本もの管。徐々に数値が減っていくECG。そして仕舞いにはもう殆ど動かない、姉の体。そんな姿を見ていると、気が狂いそうだった。どうして、姉さんがこんなめに合わなければならないのかと、何度も神を呪った。姉が笑っている未来を、望んだ。しかし、その望みは叶わず、ピーーーというけたたましくなる甲高い音とともに、姉は、息絶えた。
たまに夢に出てくる。元気だった頃の姉が、衰弱しながら暗い場所に歩いていく。それなのに僕は、ずっと同じ場所に留まって、姉を見ていた。そんな夢を。恐らくこれは僕の罪悪感なのだろう。衰弱していくのを目の前に見ていたのに、僕は何もしなかった、ただ、神を呪って、幸せを願ってばっかで、努力なんかしないで、見ているだけだった。僕が夢で止まっているのは、そういうことなのだと思う。だから僕は、姉が死んだその日から、人との関わりを極力避けた。N極とN極は退け合うように、S極とS極は退け合うように、僕は人を避けた。姉が本来味わうはずの幸福を、幸せを、楽しさを、僕が味わっていいわけが無い。だから僕は、家族との関わりも極力避けた。高校生ながら一人暮らしも始めた。不安が無かった訳でもない。それでも、姉よりが味わった不安よりはマシだったはずだ。
いつものように、夜風にあたるために僕は家を出て外を歩く。夜風が気持ちいい。なんてことを言ったら姉は怒るだろうか。私があんな苦しい思いをしてたのにと、怒るだろうか。そう考えると、もう家に帰った方がいいのかもしれない。帰って、早く意識を落とした方がいいのではないだろうか。そんなことを考えながら僕は公園を通る。誰かがベンチで座っている。座っている?いや、あれは、横になっている。ホームレスだろうか。どちらにせよ僕には関係ない。そのはずなのに、僕の足は、ベンチに横たわっている人の方へと、歩を進める。「こんばんは、どうしましたか」そこまで言って僕は言葉を失う。なぜ、こいつがここにいる?ベンチに横たわっていたのは、月弥葵だった。制服のまま、ベンチに横たわっている。寝ているのか?いや、寝ているわけが、、、そんな思考を巡らせていると彼女ーーー月弥葵が言葉を発す。「こんばんは。どちら様でしょうか」そんな家に訪問者が来た時の接し方をされても困ってしまう。なにせここは、公園なのだから。こんな所が家だと言われても僕は信じることはできないだろう。そんなことを考えていると月弥葵は、こちらに振り向く。振り向いた瞬間、驚いたと言ったような顔をする。ーーーーこっちのセリフなんだがな、、、「えーっと、たしか、、、同じクラスの、、」「月ヶ瀬翔也」「あー!そうだ!えーっと、月ヶ瀬、、し、しょ、なんだっけ?」覚えてなくて当然だと、僕は言う「月ヶ瀬翔也だ」「あー月ヶ瀬翔也くんね、覚えたよ!」覚えるまでの過程が凄く失礼なのは置いておこう。「で、そんな陰キャでひとりぼっちの月ヶ瀬翔也くんはこんなところでどうしたの?」悲しい。ただただ悲しかった。「こっちのセリフだよ、こんな夜中に外で何してるの」彼女は気まずそうにこちらを見ながら「家がないんだよね。。。」と告げる。そんなことを言われてああはいそうですかと、言えるわけもない。とはいえここにこのまま置いて行くのも気が引ける。「僕の家泊まる?」そう告げたあとの彼女の顔はなんとも言えない顔だった。月光のせいか少しばかり綺麗に見える。「何考えてるの?」妥当な反応だろう。ろくに話したことも無い、名前も覚えていないクラスメイトに家に泊まるか聞かれているんだ。当たり前の言葉だろう。僕だってそう言うし、誰だってそういう。そんな簡単な問題、考えればわかるはずなのに、僕は何を考えて発言したのだろう。「困ってそうだったから。」と端的な言葉を放つ。「なにそれ」と言いながら彼女は苦笑する。その顔はさっきよりも、何倍も美しかった。それと同時に虚しくもあるように見えた。「じゃぁ、お言葉に甘えちゃおうかな」と、彼女は申し訳なさそうに言う。この会話の中で信じれる要素なんてあっただろうか、なんてことを考えながら僕と彼女は家へ歩を進める
家を片付けといてよかったと思ったのはいつぶりだろう、何週間、何ヶ月、もしかしたら何年ぶりかもしれない。僕はアパートの2階に住んでいる。一人暮らしするには十分な設備があり、広さがある部屋だ、初めて見た時はもう少し広かった気もするけど、自分の荷物が嵩張って来たせいなのか、それとも慣れてきたせいなのかは分からないが、少し狭く感じる。家を出た時に電気を消すのを忘れていたらしく、部屋の明かりはついていた。弱々しいがどこか安心する、少し橙色の色味を帯びた白の光だ。なにか中学校の技術の授業でやった記憶があるが、正直そんな覚えていない。
「とりあえず、そこら辺座ってよ」と言いながら少し廊下を進んだところにある部屋の机を指さす。彼女は丁寧に靴を脱ぎ、踵を揃えてお邪魔しますといいながら奥の部屋にいく。僕も後ろをついて行き、彼女が座ったところの横に座る。少しの間沈黙が流れる。その沈黙は決してきまづい訳でもなかったしどちらかと言えば心地よかった。そんな沈黙を破るように彼女は言葉を発する。今更気づいたが、凛としていて、聞きやすい声だった。「ありがとう。こんな意味わからないやつを泊めてくれて」「さっきも言ったけど困ってそうだったから助けた、それだけだよ。」なにそれといいながら彼女は笑う。また少しの沈黙が流れる。少し経ってから彼女は「なんで夜中に公園に居たのか、聞かないの?」それは僕が自分から会話に出すのは辞めておこうと思ってた話題だった。過去になにかあった人から聞くつもりは無いし、聞いてもどうしようもない。「別に聞くつもりは無いよ。確かに少しは気になるけど、君にとってそれが辛いことなら僕は聞かないし、言わなくていい。」彼女は優しいねといいながら、また笑う。優しいねなんて言われたのいつぶりだろう。他人のことは避けてきたし、関わりたくなかった。また失いたくなかったから。彼女はどこを見て優しいと言ったのだろう。僕にはわからなかった。「昔ね、私にも家族がいて、兄妹がいた。でも、父が交通事故で亡くなって、母も私たちを残して後追い自殺しちゃったんだ、兄と妹は鬱病との合併症で衰弱死した。その時私、中学生でこの先どうしたらいいか分かんなくて、色んな家に泊まらせて貰いながら生きてきた。おじさんだったり、おばさんだったり、優しい人も居たけど、大半は体目当てだった。こんな辛い思いするならもういっそここら辺で家族の後を追うべきかなって、そう思いながら高校で過ごしてた。でも多分、これが間違いだったんだと思う。みんなに嫌われないように明るく接してたらいつの間にか周りに友達が増えてきて、多分周りから見るとスクールカーストの上位に入っちゃったんだと思う。だから私が死んだらどれだけ悲しむか、私にはよくわかってたから、逃げることも出来なかった。そこから私の世界には、心には色が無くなって、生きる意味がわからなかった。」彼女は複雑な、悲しみや、虚しさや、怒りまでも含んだ表情を浮かべた後、なにか思いついた顔で僕のことを見た。どうしたのだろうと思いながら首を傾げると、彼女は、「私の生きる意味、一緒に探して!」と僕に頼んできた。頭の整理が追いつかない。当然だ、こんな色んな話を急にされてどうすればいいんだ。「ごめんね、急にこんなに話して。答えが出るまで待ってるから、ゆっくり考えて。」正直、今までの話を整理すると、僕にはメリットがない。だからといって、断る訳にも行かない。少し好奇心が湧いたせいもあるのか、僕は「わかった。君の生きる意味、一緒に探したい。」と言う。すると彼女は「君じゃない!月弥葵!」と言われたので僕は渋々「わかったよ。月弥。」というと彼女は満足したような顔で、頷いた。「取り敢えず、今日はもう遅いから、早く風呂に入って寝な。」という。気付けば時計は夜11時を指していた。
人気配信アプリの配信者が亡くなった。というニュースが回ってきたのは、月弥葵が僕の家に来てからわずか一日半のことだった。最初は学校で小耳に挟んだ程度だが、その配信者がまだ若かったこと。ネットでの誹謗中傷が原因で自殺したこと。この2つもあり、僕はそのニュースについて調べた。もし、僕が誰かに自殺をしたい。そう言われたのなら、僕はその人に、死ぬなとも言わないし、死ね、とも言わないだろう。ただ、話を聞いて、僕が、君と親友になるまで、待って欲しい。と言うのだろう。もしかしたら、もっと違うことを言うのかもしれない。けど、本質は変わらない。もし、1年間で10人が自殺している崖があったとしても、僕はそこに、柵を作ろうとは思わない。よく、自殺するなんて逃げだ、逃げるな。という人がいるのだが、それは根本的に違うと思う。自殺したがってる人は、逃げるんじゃなくて、逃げれなかったんだ、一見同じこと言ってるようにも見えるかもしれない。けど、違う場所から見れば、違う。逃げるつもりなんて無くても、逃げれなかったら、全員、最終的にはその道に辿り着く。きっと、自殺した人は、他の道が見えないほど、追い込まれているんだ。だから僕は、その人に、生き地獄に居ろ。なんて残忍なことは言いたくない。ただ一言、言葉を添えるだけだろう。それと、たまに、自殺した人を、あいつが弱いからいけない。と攻める人がいる。だがそれも、根っからみたらまた違うだろう。もしいじめで、その人が死んだんだとしたら、いじめなければ、自殺なんて考えなかった。それなのに、弱いから、なんて一言で片付けるのはあまりにも違っているだろう。昔、家で猫を飼っている女の子が、猫の臭いがするせいで、いじめられ、自殺したというニュースを見たことがある。それだって、臭いなんて気にしなければ、彼女は死ななかったはずだ、 こういうのを、バタフライ効果、又はバタフライエフェクトというのだろう。誹謗中傷で亡くなった配信者もそうだ。元々誹謗中傷なんてしなかったら、もっと人を笑わせて、楽しませて、誰かを救えたかもしれない。ただ一言、死ね、この一言だけで、人が死ぬ。こんなことを、人に言ったら偽善者だと思うだろう。実際そうかもしれない。でも、今こうして、僕たちがなんの問題もなく、息をしている一瞬でも、人は自殺を覚悟する。人間とは、そんな、愚かで、阿呆で、それでいて、生きようとする姿は美しい。そんな、生き物なんだ。
「ねぇ、買い物行きたい!!!」朝食を食べながら急に言われたものだから、動揺してしまった。それにしても、朝食をまともに食べるなんていつぶりだろうか、僕自身料理とかはしないタイプだし、一日一食あればいいと思ってるので、朝食は基本取らない。なぜ今日取っているのかと言われると、簡単に言うと朝起きてきたら料理が置いてあったからだ。彼女はもう机に座って食べる準備をしていた。僕も席に座り、いただきます。と言ってから彼女が用意してくれた食べ物を口に運ぼうとした時に、そんなことを言われた。今日は土曜日だしゆっくりしてたかった気分だったが、彼女の真っ直ぐな目を見るとそうもいかないみたいだ。「いいよ。行こうか。」正直県外と言われなければどこにでもついていくつもりだ。いつからだろう、人と出かけるなんて。姉は、怒るだろうか。それとも、私も行きたかったなんて、悔し泣きでもしてるだろうか。「やった!」彼女はそう言いながら、笑みを浮かべる。すると彼女は朝食を食べ終わり、食器の片付けを始める。それに便乗して僕も食器の片付けをする。彼女に食器洗うよと言ったのだが、泊めてもらってるんだからこれぐらいはしなきゃと綺麗にかわされてしまった。食器を洗いながら僕は彼女に何を買ってあげるか悩む。僕自身お金はあんまり使わない方なので、両親から毎月貰ってるお金が数十万は溜まっているはずだ。取り敢えず服だよな。などと考えていると彼女が、「早く!置いてくよ!」と言うものなので急いで準備して僕も玄関へと向かった。
僕の住んでいる地域は都会といっても差し支えない場所なので店には困らなかった。彼女は終始はしゃいでいたが、途中で疲れて話題もなくなったのか今日良い天気だね。と、会話に困った時に使いがちの言葉BEST5には入るだろう言葉を言った。今日は快晴で、気温も低からず高からずといった感じだ。これで少しくもっててくれれば永遠にその天気で良いと思えるぐらいにはいい気候状態だろう。すると彼女は「ねぇお腹すいた、あれ食べよ!」と街にあったたこ焼き店を指さして言う。昔食べたような記憶はあるが、あまり覚えていない。そもそも本当に行ったかすらも分からないし、それが分からなければ味すらも覚えていない。彼女は僕の手を強引に引っ張りながら店に入っていく。僕は苦笑いしながら、店員さんにたこやきを2つ注文した。色々な種類があって美味しそうだったが、考えて後ろがつっかえたら嫌なので、よく家でたこ焼きを作った時に食べるような味のたこ焼きを注文した。たこ焼きを夏に食べたいかと聞かれたら僕は速攻でいいえと答えるだろう。何故暑いのに、熱い食べ物を口に入れなければならないのだろうか。甚だ疑問で仕方ない。彼女と他愛もない会話をしながら、たこ焼きを頬張る。今日は気温もそこまで高くないせいか、夏にたこ焼きを食べるのも悪くないなという気がしてきた。彼女は、たこ焼きを食べ終わったと同時に「花火したい!」と言い出した。僕自身別に花火が嫌いなわけではないので、いいよ。と、端的な一言で返事をした。