月日はあっという間に流れ、今は春休み。
そして今日は、一輝くんと同居最終日の前日。
明日には三年間お世話になったこの部屋を出る。
三年間、この部屋に住んでいたから愛着が湧いて、明日、この部屋を出るのだと思うと、なんだか寂しい気持ちになる。
そして、もう一つ私が寂しいと思っていること。
それは。
一輝くんと一緒に住めなくなってしまうこと。
私は地元の大学に進学することが決まっている。
なので私は実家に戻って、そこから大学に通う。
そして一輝くんは。
実は一輝くんも自分の実家に戻ることになったのだ。
本当なら、今いるマンションから高校に通った方が絶対的に近い。
一輝くんの実家から今の高校に通うとなると、往復でかなりの時間がかかる。
それなのに一輝くんは私と一緒に実家に戻ると言った。
その理由は。
私がこのマンションを出る。からだそうだ。
実にシンプルな理由。
一輝くんにそう言われて、私はすごく嬉しかった。
でも、それと同時に。
私は心配になり、一輝くんに訊いた。
「実家に戻ったら高校に通うことがかなり大変になるけど大丈夫なの?」と。
すると一輝くんは。
「僕は結菜ちゃんと一緒に暮らしたくてここに住んだだけだから。結菜ちゃんが出てっちゃうのに、いつまでもここに暮らしている意味なんてないよ」と。
一輝くんはそう言ってくれても、私としては、やっぱり一輝くんが往復かなりの時間をかけて高校に通うなんて、あまりにも気の毒だと思った。
だから私は、一輝くんが気の毒でたまらないということを一輝くんに伝えた。
すると一輝くんは、
「僕は通学時間がかかることよりも、結菜ちゃんに会える回数が減ってしまうことの方が辛い」と言った。
一輝くんの気持ちを聞いて、私は何も言えなくなってしまった。
言えなくなってしまったのも本当だけど、それ以上に一輝くんの気持ちが嬉しかった。
一輝くんの気持ちが嬉しかった私は、一輝くんに『ありがとう』という気持ちでいっぱいになった。
こうして私と同じ日に一輝くんもこのマンションを出ることが決まった。
私と一輝くんが同じ日にこのマンションを出ることが決まったのはいいのだけど。
他にも大事なことが。
それは彩月のこと。
なぜなら、私と一輝くんがこのマンションを出たら、この街に残る彩月は一人暮らしになってしまうという心配を彩月のご両親はするに違いないから。
なぜ彩月のご両親がそういう心配をするかというと。
彩月が約一年前から恋人の夏川さんと一緒に暮らしていることは、彩月のご両親には内緒にしているから。
彩月のご両親は、今の今までずっと私や一輝くんと暮らしていると思っている。
なので、この街に残る彩月は、今年の四月から一人暮らしになってしまうと彩月のご両親は心配するだろうと思った。
もともと彩月のご両親は、彩月の一人暮らしには賛成していない。
彩月が高校生の時点でご両親と離れて暮らすことが許されたのは、私と一緒に暮らすということだったから。
なので私と一輝くんがこのマンションを出たら、彩月はこのマンションにたった一人になってしまうと、ご両親は心配するだろう。
なぜなら、彩月はこの街に残って、この街の大学に進学することが決まっているから。
実はその大学、恋人の夏川さんと同じ大学なのだ。
そして彩月は今年の四月からも、恋人の夏川さんと一緒に暮らすそうだ。
でも彩月は、そのことをご両親に話していない。
心配になった私は、一輝くんに今年の四月から彩月はどうするとご両親に話すのと訊いてみた。
一輝くんの話だと、彩月は今年の四月から高校の友達と一緒に暮らすとご両親には話すということらしい。
私の心配は一瞬で解決した。
というか、よく考えたら彩月に直接訊けばよかった話だった。
なんと、うっかりな私。
「結菜ちゃん」
……‼
おっと、私。
相当長い時間、自分の世界に入っていた。
一輝くんに声をかけられて我に返った。
「今日の夜は、僕と結菜ちゃんの二人暮らし最終日の夜だから一緒に寝よ」
甘えた口調でそう言った、一輝くん。