「じゃあ、夜に何があるのか教えてよ」
私は、しつこく一輝くんに訊いた。
「それは夜までのお楽しみって言ったでしょ」
「もぉ~っ、一輝くんのイジワル~っ」
私は頬を膨らませてそう言った。
「あはは……‼」
すると一輝くんは大笑い。
「もぉ~、何がおかしいのぉ~、一輝くん」
私は、ますます頬を膨らませてそう言った。
「もう、ほんと可愛いな~、結菜ちゃんは」
私が頬を膨らませれば膨らませるほど、一輝くんは私のことを『可愛い』と言って頭を撫でてきた。
「別に可愛くないもん」
私は風船のようにプーッと頬を膨らませてそう言った。
「はいはい、よしよし」
そんな私のことを一輝くんは、やさしく頭を撫で続けた。
なんか。
なんか、うまく一輝くんにかわされてしまった。
結局、覚悟の夜が何なのかわからないまま公園を出て、一輝くんと一緒にスーパーに寄ってマンションに帰った。
結局、そのときも一輝くんは何も教えてくれなかった。
そして夜。
一輝くんが言っていた覚悟の夜。
たぶん。
たぶん、そうなんじゃないのかなとは思っていたのだけど、やっぱり。
今日の一輝くん、いつもの一輝くんよりも……。
その先は、とてもじゃないけど恥ずかし過ぎて言うことができないくらい……。
こうして今日という日は過ぎていった。
同居終了
月日はあっという間に流れ、今は春休み。
そして今日は、一輝くんと同居最終日の前日。
明日には三年間お世話になったこの部屋を出る。
三年間、この部屋に住んでいたから愛着が湧いて、明日、この部屋を出るのだと思うと、なんだか寂しい気持ちになる。
そして、もう一つ私が寂しいと思っていること。
それは。
一輝くんと一緒に住めなくなってしまうこと。
私は地元の大学に進学することが決まっている。
なので私は実家に戻って、そこから大学に通う。
そして一輝くんは。
実は一輝くんも自分の実家に戻ることになったのだ。
本当なら、今いるマンションから高校に通った方が絶対的に近い。
一輝くんの実家から今の高校に通うとなると、往復でかなりの時間がかかる。
それなのに一輝くんは私と一緒に実家に戻ると言った。
その理由は。
私がこのマンションを出る。からだそうだ。
実にシンプルな理由。
一輝くんにそう言われて、私はすごく嬉しかった。
でも、それと同時に。
私は心配になり、一輝くんに訊いた。
「実家に戻ったら高校に通うことがかなり大変になるけど大丈夫なの?」と。
すると一輝くんは。
「僕は結菜ちゃんと一緒に暮らしたくてここに住んだだけだから。結菜ちゃんが出てっちゃうのに、いつまでもここに暮らしている意味なんてないよ」と。
一輝くんはそう言ってくれても、私としては、やっぱり一輝くんが往復かなりの時間をかけて高校に通うなんて、あまりにも気の毒だと思った。
だから私は、一輝くんが気の毒でたまらないということを一輝くんに伝えた。
すると一輝くんは、
「僕は通学時間がかかることよりも、結菜ちゃんに会える回数が減ってしまうことの方が辛い」と言った。
一輝くんの気持ちを聞いて、私は何も言えなくなってしまった。
言えなくなってしまったのも本当だけど、それ以上に一輝くんの気持ちが嬉しかった。
一輝くんの気持ちが嬉しかった私は、一輝くんに『ありがとう』という気持ちでいっぱいになった。
こうして私と同じ日に一輝くんもこのマンションを出ることが決まった。
私と一輝くんが同じ日にこのマンションを出ることが決まったのはいいのだけど。
他にも大事なことが。
それは彩月のこと。
なぜなら、私と一輝くんがこのマンションを出たら、この街に残る彩月は一人暮らしになってしまうという心配を彩月のご両親はするに違いないから。