「でも」
と、気になる一言を言った一輝くん。
でも……?
『でも』何……?
「その代わり……」
え……?
その代わり……?
一輝くん、『その代わり』何……⁉
私はドキドキしながら一輝くんの次の言葉を待つ。
「夜、覚悟してね」
…………。
え……。
えぇっ⁉
覚悟って⁉
それは一体⁉
「い……一輝くん……⁉ 覚悟って……⁉」
「そんなの、今言うわけないでしょ。夜までのお楽しみ」
一輝くんはそう言って、イジワルな笑みを浮かべた。
「お願い、一輝くん、教えて」
そんな一輝くんに、教えてと必死にお願いをした私。
「ヤダ、今は言わない」
それでも一輝くんは教えてくれない。
「ねぇ、一輝くん」
粘る、私。
「ヤダ、絶対に言わない」
何が何でも言わない気満々の一輝くん。
「さ、結菜ちゃん帰るよ」
一輝くんはそう言って、ベンチから立ち上がった。
「あっ、一輝くん、逃げたっ」
私は一輝くんにそう言うと、一輝くんに続いてベンチから立ち上がった。
「別に逃げてなんかないよ」
またまたイジワルな笑みを浮かべた一輝くん。
「じゃあ、夜に何があるのか教えてよ」
私は、しつこく一輝くんに訊いた。
「それは夜までのお楽しみって言ったでしょ」
「もぉ~っ、一輝くんのイジワル~っ」
私は頬を膨らませてそう言った。
「あはは……‼」
すると一輝くんは大笑い。
「もぉ~、何がおかしいのぉ~、一輝くん」
私は、ますます頬を膨らませてそう言った。
「もう、ほんと可愛いな~、結菜ちゃんは」
私が頬を膨らませれば膨らませるほど、一輝くんは私のことを『可愛い』と言って頭を撫でてきた。
「別に可愛くないもん」
私は風船のようにプーッと頬を膨らませてそう言った。
「はいはい、よしよし」
そんな私のことを一輝くんは、やさしく頭を撫で続けた。
なんか。
なんか、うまく一輝くんにかわされてしまった。
結局、覚悟の夜が何なのかわからないまま公園を出て、一輝くんと一緒にスーパーに寄ってマンションに帰った。
結局、そのときも一輝くんは何も教えてくれなかった。
そして夜。
一輝くんが言っていた覚悟の夜。
たぶん。
たぶん、そうなんじゃないのかなとは思っていたのだけど、やっぱり。
今日の一輝くん、いつもの一輝くんよりも……。
その先は、とてもじゃないけど恥ずかし過ぎて言うことができないくらい……。
こうして今日という日は過ぎていった。
同居終了
月日はあっという間に流れ、今は春休み。
そして今日は、一輝くんと同居最終日の前日。
明日には三年間お世話になったこの部屋を出る。
三年間、この部屋に住んでいたから愛着が湧いて、明日、この部屋を出るのだと思うと、なんだか寂しい気持ちになる。
そして、もう一つ私が寂しいと思っていること。
それは。
一輝くんと一緒に住めなくなってしまうこと。
私は地元の大学に進学することが決まっている。
なので私は実家に戻って、そこから大学に通う。