私の中の「友達」が、一年遅れで入学した高校で変わってしまった。

 中学まで、学校で付き合う子といえば、みんな同じものに興味を持ち、同じものを可愛いと思っていた。着ている服も、観ているテレビ番組も、好きなキャラクターも、旅行先で購入するおみやげも皆、似通ったものばかり。これは大丈夫だろうか、こっちはみんなの路線から外れてないかな…知らず知らず心の中で、そんな基準と照らし合わせながら選んでいた。

 それがいきなり、ランバ・ラルと大谷吉継だったから、私の常識はぶち壊された。それは、舞台監督を志している森村奏という子がいたからだろうし、実は筋金入りの歴史好きで、行きたいお城の所在地で家族旅行の行き先が決まる、という村井千沙の存在も大きかった。二人とも中学時代は、友達の間で息を潜めて過ごしていたかもしれないが、高校に入学して隠していた翼を思い切り伸ばしている。

「大谷吉継か…いい所突いてるね。友達のために関ケ原に出陣して…」

「ランバ・ラルもいいよね。実力があるのにあんまり評価されてない所が大谷吉継に似ているかも…」

 こんな話を気兼ねなくできる三人の関係が、私は、とても誇らしかった。

 そして、今なら自分が抱えていることを公開していいかも…少しくらい打ち明けても大丈夫かな、と胸を騒がした。

 私、本当はみんなより一つ年上なんだ。去年、大きな病気に罹って…気が付くと、同じ話を胸の中で何度も唱え、やっぱり重たいよな、とため息をついていた。目の前にいる二人の顔が眩しくて、やりきれなかった。

 そうして、初挑戦のチリソース味のホットドックを手にしたままぼぅっとしていたら、

「リンちゃん…」

 突然、男子の声が割り込んできたから、三人の時間がピタリと止まった。

「リンちゃん。今日の当番、俺たちだったよね」

 まるで夜風に揺れる桜の花びらみたいな天道くんの声が窓側の席から飛んできたから、奏と千沙が色めき立つのがはっきりと分かった。

 狙っているのかどうか知らないが、彼はいつも、私たちが盛り上がっている所に声を掛けてきた。昼休みはもちろん、朝のホームルームが始まる前とか、授業の合間の休み時間にも。いつのまにか奏や千沙と同じように、私のことを、リンちゃん、と呼んで。その度、教室中がしんと静まり返り、私は、クラス中の子から注目を浴びた。

これでは、芸能人の交際相手発覚と同じシチュエーションだ。途方もなく居心地が悪い、そう思いながら、「そうだよ…うん」なんて曖昧な返事をして、亀みたいに首を引っ込めた。お願いだから私に声を掛けないで、と心の中で唱えながら。

 ところが、いくら私が廊下側の席で身を隠しても、奏と千沙が放っておいてくれない。二人とも、つい一秒前までオタクっぽい話をしていたのに、突如、女の子らしい華やいだ空気を漂わせて、期待と興味が渦巻いた視線を注いでくるから本当に困った。

「ねぇねぇ。本当に、そういう感じになってないの?すごくいい雰囲気だけど」

「まぁ、誰にでも気安く声を掛ける奴だけど。気に入られているよね、リンちゃん」

 まるでランバ・ラルや大谷吉継より興味があるみたいに、机に突っ伏した私を覗いてくる。「知略軍略に秀でた名将」でなく「王朝貴族のお気に入り」という肩書を付けて尊敬の眼差しを向けてくるから、更に居心地が悪くなった。