それから自宅の最寄り駅に着くまでの三十分間、私はずっと、妹の琴から質問攻めに会い、姉として説明責任というのを果たさなければならなかった。
「どうして一緒にやることになったの?スズ姉は、最初から図書委員になるつもりで手を挙げたんでしょ?じゃあ何で、サッカー部の王子が?何がきっかけで?」
「その、つまり…」
「初日から一緒に帰るなんてやるじゃん。向こうは、中学から付き合っている彼女がいるっていうのに。早速声を掛けられているんだから、大いにその気があるってことでしょ?」
まるで野球漫画の千本ノックみたいに、息つく間もなく飛んでくる質問に答える前に、確かめておきたいことがあった。
何故、今日一日、私の身に起きた出来事をクラスの違う琴が知っているのか。というか、私が知らない天道くん情報まで掴んで、自分の姉をやり手女子と勘違いしているのか。
よほど問いただそうと思ったけれど、ポケットから携帯を取り出し、更なる最新情報を入手している姿を目にしたら、もうその必要はないと思った。私と違って、入学二日目でそうしたネットワークを築いている妹の社交性の高さと物怖じしない性格に今更ながら脱帽した。
一応断っておくが、私、林田鈴と妹の琴は、十六年前の同じ日に生まれた「双子の姉妹」ではない。一歳違いの正真正銘の姉と妹だ。では何故、同じ年に高校に入学し、一年生としてお揃いの制服に袖を通しているのかというと、私が中学三年の時に病気療養で休学し、一年遅れで高校受験してこの学校に入ったからだ。どうして同じ私立高校に入学したかというと、一年勉強して積み上げた琴の学力と半年足らずの詰め込みで仕上げた私の学力がたまたま同じだった、というだけのことだった。
目の前に未来が開けている。遮るものは何もない、そう信じていた中学三年生の時、私は血液の病気に罹った。幸い、症状が慢性だったから命に別状はなかったが、治療とリハビリのために一年間、学校を休んだ。いつ症状が急性に変わって残された時間を宣告されるかしれない、そんな不安と向き合いながら病院のベッドで何もできない日々を送った。
私は欠陥品だ。他の子と違って、心も体も欠けている。空に向かってすくすくと伸びていくツルでなく、途中でぐにゃりと曲がってしまった実のならない芽なんだ。
何度、病室の布団の中で泣いただろう。何度、窓ガラスの向こうに浮かんだ雲を見送っただろう。
そんな病気が奇跡的に治り、私は同い年の子より一年遅れて志望した高校に入学した。
半ばあきらめていた高校生活…電車で通学し、友達とお昼ご飯を食べて、定期テストに頭を抱える…夢にまで見た毎日が始まったのだから、学校の有名人である天道くんと思わぬ形で知り合っても、この一件で根も葉もない噂が流れていても、私の心は、天にも舞い上がる気分だった。
「よかったね…一年ぶりに学校に行って」
姉と違ってちゃらんぽらんな性格の妹が、ふと手を伸ばし、私の頭を撫でながら言う。
「…うん」
私は、黄色い電車に揺られながら、黙って妹になぐさめられている。
「まぁ、勉強はどうにかなると思ったけど。そっちの方も全開なら、もう安心だね」
小さな心配事が幾つかあったが、何もかもこれから始まっていく、という気分に変わりはない。このまま新しく出会った子たちと同じ電車に乗っていきたい…家に帰る道すがら、とても強く願っていた。
「どうして一緒にやることになったの?スズ姉は、最初から図書委員になるつもりで手を挙げたんでしょ?じゃあ何で、サッカー部の王子が?何がきっかけで?」
「その、つまり…」
「初日から一緒に帰るなんてやるじゃん。向こうは、中学から付き合っている彼女がいるっていうのに。早速声を掛けられているんだから、大いにその気があるってことでしょ?」
まるで野球漫画の千本ノックみたいに、息つく間もなく飛んでくる質問に答える前に、確かめておきたいことがあった。
何故、今日一日、私の身に起きた出来事をクラスの違う琴が知っているのか。というか、私が知らない天道くん情報まで掴んで、自分の姉をやり手女子と勘違いしているのか。
よほど問いただそうと思ったけれど、ポケットから携帯を取り出し、更なる最新情報を入手している姿を目にしたら、もうその必要はないと思った。私と違って、入学二日目でそうしたネットワークを築いている妹の社交性の高さと物怖じしない性格に今更ながら脱帽した。
一応断っておくが、私、林田鈴と妹の琴は、十六年前の同じ日に生まれた「双子の姉妹」ではない。一歳違いの正真正銘の姉と妹だ。では何故、同じ年に高校に入学し、一年生としてお揃いの制服に袖を通しているのかというと、私が中学三年の時に病気療養で休学し、一年遅れで高校受験してこの学校に入ったからだ。どうして同じ私立高校に入学したかというと、一年勉強して積み上げた琴の学力と半年足らずの詰め込みで仕上げた私の学力がたまたま同じだった、というだけのことだった。
目の前に未来が開けている。遮るものは何もない、そう信じていた中学三年生の時、私は血液の病気に罹った。幸い、症状が慢性だったから命に別状はなかったが、治療とリハビリのために一年間、学校を休んだ。いつ症状が急性に変わって残された時間を宣告されるかしれない、そんな不安と向き合いながら病院のベッドで何もできない日々を送った。
私は欠陥品だ。他の子と違って、心も体も欠けている。空に向かってすくすくと伸びていくツルでなく、途中でぐにゃりと曲がってしまった実のならない芽なんだ。
何度、病室の布団の中で泣いただろう。何度、窓ガラスの向こうに浮かんだ雲を見送っただろう。
そんな病気が奇跡的に治り、私は同い年の子より一年遅れて志望した高校に入学した。
半ばあきらめていた高校生活…電車で通学し、友達とお昼ご飯を食べて、定期テストに頭を抱える…夢にまで見た毎日が始まったのだから、学校の有名人である天道くんと思わぬ形で知り合っても、この一件で根も葉もない噂が流れていても、私の心は、天にも舞い上がる気分だった。
「よかったね…一年ぶりに学校に行って」
姉と違ってちゃらんぽらんな性格の妹が、ふと手を伸ばし、私の頭を撫でながら言う。
「…うん」
私は、黄色い電車に揺られながら、黙って妹になぐさめられている。
「まぁ、勉強はどうにかなると思ったけど。そっちの方も全開なら、もう安心だね」
小さな心配事が幾つかあったが、何もかもこれから始まっていく、という気分に変わりはない。このまま新しく出会った子たちと同じ電車に乗っていきたい…家に帰る道すがら、とても強く願っていた。