凪さんと学校の最寄駅から西武新宿ゆきの電車に飛び乗った日、私たちは携帯のアドレスを交換した。同じ男子を取り合ったライバル同士…いやいや、天道翔というとても面倒くさい奴と関わった女の子同士、私たちはとても気が合って、以来、折に触れて、勉強のこと、学校行事のことなど、お互いの近況を伝え合う間柄になっていた。

 もちろん、病気療養のために休学したことも、入院が長引いて留年になったこともそのまま打ち明け、彼女から心に寄り添う温かい言葉をもらっていた(私に残された時間のことだけは黙っていたが…)。

 そして半年ぶりに学校を訪れる前の日、凪さんにテンドウへの気持ちを伝えた私は、最後に背中を押してもらいたくて思い切って尋ねた。

『欲しいものは欲しいって言っていいんだよ…あの時、凪さんからもらった言葉をずっと胸にしまってた。信じたいけど、信じきれなくて、くずくずと足踏みしてたんだ。だって、こんな病気に罹って、いつ学校に戻れるか分からない子に言われても困るでしょう?もし、うまくいっても、まともに付き合うことができないんだから、迷惑ばかり掛けて何もしてあげられない。そんなのずるい。わがままだって思ったんだ。それでも…私のことを見てほしいって思うのはいけないのかな…』

 すると凪さんは、こんな返信を送ってくれた。

『私も、同じことを考えてぐすぐすしてた。彼は、手の届かない存在だったから。私なんかにはもったいないくらいやさしい人だから。でもね、高校受験する時に塾の先生から聞いた話を思い出して決心したんだ。第一志望の学校に落ちて、投げ出そうとしていた私をもう一度、奮い立たせてくれた話。おかげで彼と付き合うことができたし、リンちゃんと友達になれた。一生、忘れられない言葉だよ』

 それはこんな話だった。

 アメリカのプロ野球・メジャーリーグの頂点は、世界一決定戦であるワールドシリーズの勝利チームだ。そのワールドシリーズには、アメリカンリーグとナショナルリーグのどちらかで優勝しないと出られない。

それぞれのリーグで優勝するには、優勝決定トーナメントへの進出が必要だ。出場資格は、三つある地区の一位チーム。それと地区に関係なく一番勝率が高かった二位チームに最後の挑戦権が与えられる。

その挑戦権の名前はワイルドカード。トーナメントの出場チーム中、一番冴えない成績だが、遥か先に世界一になる道が開かれている。

『きみにはまだチャンスがある。でも、待っていてもワイルドカードは届かない。自分から取りにいかないと!』