テンドウは、私の提案を受け入れた。

それから毎日、外階段の下で懸命にプレゼンの練習をして。私の指摘を腐ることなく受け入れて、みるみるうちにバラエティー番組のMC並みにまで上達した。

 一体、どんな心境の変化があったのか。生来怠け者で、図書室当番の本の貸出すら覚えようとしなかったのに、来る日も来る日も同じ文面を喋り、足りない所を見つけて克服していく。およそ似合わないことを面倒がらずにやったのだからすごい。見事に才能らしきものを開花させたのもそうだが、そこに至る努力を惜しまなかった、私としては、こちらの方が驚きだった。

 理由は分からない。でも、私に向けて繰り返し語り掛け、髪をかき上げながら、どう切り込んだらいいか考えている、その姿は間違いなく素敵だった。

彼のいい所をまた一つ見つけられた…目の前に現れている宝物のような景色を胸に焼き付けようと目をつむり、どこまでも高い空を想像しながら耳をすました。

 でも…彼とどれだけ木漏れ日が差したような瞬間を過ごしても、私の気分は直後に、頂を越えたジェットコースターみたいに急降下した。

「じゃあ、今日はこの辺にしておこう」

 うそだろ、もうちょっと、なんて言っている顔に構わずコンクリートの石段から腰を上げたのは、高校の玄関に見慣れた人影を見つけたからだ。

「ずっと待っているから、行ってあげて…」

 そう言って、何を言われたのか分からずきょとんとしている彼を見上げる。

 テンドウは、私が向いた方向に目をやってようやく気付き、ちょっと気まずい顔をして言った。

「ごめん。じゃあ、また明日」

「うん…」

「ありがとう」

 そうして名残惜しそうに私に手を上げ、午後の陽が降り注ぐ散策路を駆けていく。凪さんの待つ高校の玄関に向かって。

 私は、階段の下から彼がいなくなるまで、ずっと下を向いていた。二人が玄関で落ち合い、校門に向かって歩いていくのを、自分と関わりのないファンタジーの世界を見るように口を開けて眺めていた。何でそんなにがんばるんだ。私のことなんか気にしないで、さっさと帰れ、なんて悪態をつきながら。