どんなに気合を入れて考えても、彼と触れ合う自分の姿が浮かんでこない。まるで映画俳優の恋人になったら、と想像するみたいに、地味で貧相な見た目の自分と釣り合わず泣けてくる。席に付いて、森村奏さんに、今後のために天道くんの中学時代の情報が必要かな、と振り返られても、もういいかも、と曖昧な笑みを浮かべていた。そんな矢先、
「あの…」
何処からともなく、蚊の鳴くような声がしたから振り返った。
教室の中は、学園祭の実行委員を選ぶのに大騒ぎになっていて、あちこちの席から驚きや不満の声が上がっている。そんな状況で耳に入ってきたから、何処の誰だったか見当もつかない。やっぱり空耳かな、と思っていると、
「あの…演劇部の森村さん?」
通路を隔てた隣の席から、生まれたての赤ちゃんみたいな女の子が恐る恐る声を上げていたから、慌てて前の席に座っているひょろりと長い背中を突いた。
「私?そうだけど…」
森村奏さんが相変わらずひょうひょうとした態度で振り返ると、その女の子は…確か村井千沙さんだ…雨上がりの太陽を浴びたように顔を輝かして、
「去年の学園祭の舞台、観ました。脚本と監督と主役だったんですよね。こんな素敵な劇を作る人と同じ学校に行けたらどんなにいいだろうって…それで頑張って、合格して、ここに来たんです」
ずっと胸の中で温めていたらしい言葉を一気に吐き出した。憧れの人の姿を見上げて、今更頬を赤らめた。
村井千沙さんは、去年の中等部の舞台を観て、看板俳優兼監督兼脚本担当の森村奏さんに憧れてこの学校を志望したらしい。念願かなって、こうして本人と言葉を交わして、天にも昇る気持ちでいるようだ。
そんなすごい演劇を作る子なんだ、と二人の間に座っている私は、よく見ると舞台映えしそうな抜群のスタイルを後ろから眺めた。同時に、そんな彼女を慕って入学するなんて、よほど舞台や演劇が好きなんだ、と赤ちゃんみたいな笑顔を振り返った。
中学校の学園祭で行われた演劇が二人の女の子を高校でめぐり合わせた。その事実を目の当たりにして、自分まで幸せな気分に浸っていた。
「あの…」
何処からともなく、蚊の鳴くような声がしたから振り返った。
教室の中は、学園祭の実行委員を選ぶのに大騒ぎになっていて、あちこちの席から驚きや不満の声が上がっている。そんな状況で耳に入ってきたから、何処の誰だったか見当もつかない。やっぱり空耳かな、と思っていると、
「あの…演劇部の森村さん?」
通路を隔てた隣の席から、生まれたての赤ちゃんみたいな女の子が恐る恐る声を上げていたから、慌てて前の席に座っているひょろりと長い背中を突いた。
「私?そうだけど…」
森村奏さんが相変わらずひょうひょうとした態度で振り返ると、その女の子は…確か村井千沙さんだ…雨上がりの太陽を浴びたように顔を輝かして、
「去年の学園祭の舞台、観ました。脚本と監督と主役だったんですよね。こんな素敵な劇を作る人と同じ学校に行けたらどんなにいいだろうって…それで頑張って、合格して、ここに来たんです」
ずっと胸の中で温めていたらしい言葉を一気に吐き出した。憧れの人の姿を見上げて、今更頬を赤らめた。
村井千沙さんは、去年の中等部の舞台を観て、看板俳優兼監督兼脚本担当の森村奏さんに憧れてこの学校を志望したらしい。念願かなって、こうして本人と言葉を交わして、天にも昇る気持ちでいるようだ。
そんなすごい演劇を作る子なんだ、と二人の間に座っている私は、よく見ると舞台映えしそうな抜群のスタイルを後ろから眺めた。同時に、そんな彼女を慕って入学するなんて、よほど舞台や演劇が好きなんだ、と赤ちゃんみたいな笑顔を振り返った。
中学校の学園祭で行われた演劇が二人の女の子を高校でめぐり合わせた。その事実を目の当たりにして、自分まで幸せな気分に浸っていた。