もちろん、テンドウは二つ返事でこの話を承諾し、その日のうちに日時を決めて、川越の林田家のマンションで二人で映画を観る、というまさかのイベントが決定した。

ちなみに、DVDのレンタル料金を公平に折半しようと申し出たら、俺が購入して持っていく、最初からそうするつもりだっだ、と言ってまた私を驚かせた。

一体、何処まで気に入ったんだ。ただでさえ、男子を家に招いてDVD鑑賞なんて、根回しが大変そうな出来事なのに。果たしてどんな結末が待っているんだろう…。

そうして私が一人で胸を騒がせているうち、瞬く間に当日がやってきた。西武線の終点、本川越駅の改札口で、琴と二人、黄色い電車から降りてくる彼の姿を捜す。いつも通学で使っている見慣れた景色が、嫌でも特別な感じで浮き立ってくる。

 念のため言っておくと、妹の同伴を私は喜んで受け入れた。一応、表向きは迷惑そうな顔をしたけれど…一緒にいてくれた方が助かる。二人きりで何時間も過ごしたら帰る時にどういう気持ちでテンドウを見送っているか、自分に自信がなかったから。

 思惑どおり、琴のテンションは「天道翔、川越に来る」の報を聞いた瞬間に最高値に達した。この歴史的訪問を是非とも自分の目で確かめないと、などと気合を入れまくって、私と一緒に父と祖母に掛け合ってくれた。二人が留守の間も私が同席するから大丈夫、決して間違いのないようにする、だから許してあげて、と懇願し、まんまと大人の許可を取り付けてしまった。

 テンドウと私の組み合わせで間違いが起こるとは思えないが…ともかく、琴の同伴でDVD鑑賞すると決まって安心した。これで後顧の憂いなく課題研究に取り組める。晴れ晴れとした気分で、大勢の下車客の中から現れた彼に手を振っていた。

「おはよう。遠いところ、ありがとう」

「こっちこそ、わざわざ迎えに来てくれて…」

「…うん」

てっきり派手なティーシャツに短パン、素足にサンダル履きで来るのかと思ったら…彼は、ポロシャツもチノパンもフォーマルと言っていいくらい落ち着いたデザインのものを着て現れた。父も祖母もいないから安心して、と言っておいたのに、どんな心持ちでやってきたか一目で分かって目が離せなくなる。

 ちなみに私も、デートから一番遠い落ち着いた感じの外出着で行くはずだったが、家を出る寸前に琴から強烈な駄目出しを食らって一番可愛い、女の子を殊更主張するデザインのものに着替えて来ていた。テンドウがそれをさりげなく確認したのを目にして、こっちで良かったかも、と密かにニンマリとしていた。

 そうして、ちぐはぐなファッションに身を包んだ二人で初々しく照れていればよかったが、前述したとおり、私の隣にはお目付け役がくっついている。テンドウが改札口に現れた瞬間から、早くしろ、と鼻息を荒くして脇腹を突いてくるから仕方なく「あ、妹の琴…」と紹介した。