『昨日の夜、最後まで読んで、今日から二周目に入った。当たり前だけど、一周目と全然違うね。ヒロインの女の子がどうしてこんな反応をするか、全部分かるんだから。リンが二回読んだっていう意味が分かったよ』

『そうでしょう?クイズの答え合わせみたいで楽しいよね』

『この話、本当に面白いね。色んな所にヒントがあって、あぁ、そうなんだ、やられたって毎日驚いている。やっぱり、リンもそうだった?早く会って話したい。今なら、何時間でも話していられると思う』

『じゃあ、次の当番の日に打ち合わせをしよう。図書委員の仕事が終わってからでいいかな?』

『明日、改札の前で待ってるから。ところで、打ち合わせをするなら何処かで昼飯、食べない?もちろん、リンの好きなものでいいよ』

 あれから毎日のようにメールが送られてきた。クラスメートという枠を軽々と超えた、とても親し気な調子で。

私も、奏や千沙に送る感覚で返信した。足元に引かれた線を越えないよう慎重に言葉を選んで…。

 学園祭のイベントで組むことになってから、彼と携帯のアドレスを交換した。夏休みの間に準備を進めるなら、互いの連絡先が必要になるだろうと考えたのだ。

 だから、こんな友達同士みたいな文面をやり取りしても驚かなかった。むしろ、彼が乗り気になってくれて、ほっと胸を撫でおろしていた。

『お昼ごはん、もちろんオッケーだよ。ちなみに私が好きなのは、きみに教えてもらったホームズパンだけど…』

 先週までいっそ一人でやってしまおうか、と思っていたのに、当たり前のように二人で進めていく段取りを考えている。ただ一つ、彼に対する自分の態度を決められないまま…。

『おい。リン…』

 あの時、彼は、私の名を呼捨てにした。私が激高したことに反応して。
それは仕方ない。こちらも、相応の言葉を投げつけたのだから。

 でも、その後のメールでも、彼は私のことを『リン』と呼んだ。これまでのように『リンちゃん』でなく…。

 同じ『リン』でも、学校で言い合った時とメールのやり取りをした時とでは中身が違う。メールの中の『リン』は、親しみを込めて呼んでくれている。これまでの『リンちゃん』とは違うニュアンスで。

 先週と今週で、彼の中で何かが変わったのだろうか。

そうだとしたら、私はどうすればいいのか。彼を何て呼んだらいいのだろう。

 そんな疑問をぐるぐると頭の中で回しながら、その日も私は、学校の最寄り駅の改札口で天道翔と落ち合い、図書室のカウンターで貸出当番の仕事に就き、お昼に別のクラスの図書委員と交代して学校を出た。そのまま図書室に残って打ち合わせをしてもよかったが、私がメールで、ホームズパンが食べたい、と言ったから…夏休みで購買部が開いてなかったので、通学路の途中にあるお店に寄って、最寄り駅のホームに設置された待合室に入って、総菜パンを食べながら打ち合わせをすることにした。