私たちが学園祭でプレゼンする本は、ライトノベルのベストセラー小説に決まった。

大学で謎の美少女と出会った男の子が、彼女と仲良くなり付き合い始めるが、やがて相手が何年も前から男の子のことを慕っていたことが分かってくる。その目的、正体が最後まで分からないまま物語が進んでいく…。

謎に包まれたヒロインをとことん描いた長編だ。去年、映画化もされ、若い世代にとても知名度が高い。文学作品や古典を紹介するのもいいが、こっちの方がお客さんに知られていておもしろいんじゃないかな、と天道くんが推して、私も、やりがいがあるかも、と思って了承した作品だ。

 私としては、何に対しても夢中になることがない彼が、珍しく前向きな気持ちで決めてくれたのが嬉しかった。この調子なら瞬く間に本を読んで夏休みに二人でじっくり研究できる。そうすれば、すばらしいプレゼンができるかもしれない。そう期待して、川越の駅ビルに入っている書店で同じ文庫本を二冊購入し、次の日、窓側の席に行って彼に渡した。

 天道くんは、お気に入りの漫画を手に入れたみたいにテンションを上げて、クラスの子たちを驚かした。

「すごい。早速、今日から読むよ」

「お互い、がんばろうね」

「もちろん。リンちゃんと一緒ならやる気が湧いてくる」

 二人で同じタイトルの本を掲げて、よし、とうなずく。

彼氏彼女の関係でなかろうと、周りからどう思われていようと、この瞬間、天道くんと繋がっていると思うと、やっぱり胸が熱くなる。

色々なことが頭の中を駆け巡って、ため息がもれる時もあるけれど、このイベントだけは成功させよう。学園祭本番まで、彼と力を合わせて進んで行こう、そう決めて、精一杯の言葉を掛けていた。

「私も、天道くんとなら頑張ろうって思うから、しっかり読んでくるね」