「あ、鏡」
「それなら朝比奈くんが全部片付けてくれたから心配しないで」
「そう、ですか……」
悪目立ちする金髪でよく生活指導の先生に捕まっている。
それに授業もサボることが多くて、派手な人たちとつるんでいるため、クラスでは少し浮いていた。
そんな彼が私をここまで運んでくれて、後片付けまでしてくれるなんて少し意外だ。
「熱はなさそうだし、寝不足かしら。なにか思い当たることはある?」
「え……?」
てっきり叶ちゃん先生に青年期失顔症のことを話しているものだと思っていた。また彼に関して意外なことがひとつ増える。
「……たぶん、寝不足だと思います」
「そう。間宮さん、バスケ部だものね。練習も大変でしょう?」
曖昧に微笑んで頷くことしかできない。桑野先生のことが頭によぎり、叶ちゃん先生に話しても、きっと話しても無駄な気がしてしまう。
大人になんてわからない。
青春は一瞬だから、悔いのないように部活に全力を注げとか、桑野先生はよく言っていた。
でも、先生。青春って、我慢をするものなんですか。
行きたくないと思う部活へ行って、みんながやりたがらないことを押し付けられて、〝いい子〟だと決めつけて勝手な理想を造られる。
たとえば私が急にいなくなったとして、いったい何人が気づいてくれて、悲しんでくれるのだろう。
「間宮さん? もう少し休んでいく?」
「いえ、大丈夫です。ご迷惑おかけしました」
叶ちゃん先生に頭を下げて、私はベッドの横に置いてある上履きに足を入れる。
靴の底で、じゃりっと音がした気がした。