「青年期失顔症を故意で引き起こしている可能性が高いのは、バスケ部の生徒です」
「え……」

 予想外の言葉に耳を疑った。
 故意に起こしているのが、バスケ部の生徒?


「とは言っても、本気で青年期失顔症を引き起こせると思って誘導していたとは断言できません」
「……それはどういうこと?」
「ただ人のいいフリをして、相手が精神的に苦しくなる方向に誘導していた可能性もあるんです」

 それはつまり、どちらにせよ善人のふりをして、人を追い込んでいた人物がいるということだ。

「私が自分を見失うきっかけになったというか……本を読むことを薦めたり、相談事に乗ってくれていた先輩がいるんです」
「その人が……バスケ部なの?」
「はい。すごくいい人で、疑いもしませんでした。けど、冷静に考えると優しく甘言を囁きながら、私の精神を揺さぶっていました」

 誰なのか、聞けなかった。聞いてしまえば引き返せない気がしたからだ。


「間宮先輩も知っている人です」

 喉の奥がひりつく。焼けるように痛くて、吐く息が震えた。


「調べたところ、その人のクラスメイトにも発症者がいるらしいです」

 故意に起こしたなんて断言はできない。けれど、実際にその人の周りで起こっているのだと、発症者たちが証明してしまっている。



「誰だかわかりますか」

 私は目を瞑って、ゆっくりと頷いた。
 思い返せば、私に助言をしたのもあの人だった。桑野先生に相談した方がいいと優しく声をかけて誘導をした人。


 どうしてと聞きたい。問い詰めたい。だけど、私にはその資格はないように思える。



 これは周りが彼女の心を刺し続けたことが、そもそもの原因なのかもしれない。