駄菓子を購入した後、私たちは近くの公園で食べることにした。
 滑り台やアスレッチックで小学生たちが楽しげに遊ぶ中、私と朝比奈くんは丸太のベンチに座って、先ほど購入した駄菓子を取り出す。


「メダルチョコ、美味しい」
「昔は当たり付きだったよな」
「え、今はもうないんだ!」
「いつのまにかなくなってた」

 久しぶり食べた駄菓子屋さんのチョコレートはものすごく甘く感じた。まるで濃いココアでも飲んでいるかのように濃厚で舌に残る。けれどそれが懐かしい。


「ねえ、朝比奈くん。嫌だったら答えなくてもいいんだけどさ」
「じゃあ、嫌だ」
「話聞いてから言ってよ」

 聞きたいけれど、踏み込んでもいいことなのかわからない。無理やりに答えてほしいわけではなく、嫌でなければ教えてほしい。

 だから保険をかけるような言葉を事前に発してしまったのだけど、朝比奈くんにとってはそれが気に入らなかったみたいだ。


「そういういらねぇ前振りすんな。聞きたいことあるなら、顔色伺わずに普通に聞け」
「でも」
「別に他の奴にする分にならいいけど。ストレートに聞かれたくねぇことがある奴もいるし。でも俺はそういう前振りは嫌だ。聞かれたことには答える」

 隣に視線を向ければ、膝の上で頬杖をついている朝比奈くんがじっと私のことを見つめている。


「で、なに聞きたいんだよ」

 今更なんでもないと引き返せるような雰囲気ではない。


「……なんで中学のとき、サッカー部辞めたの」

 ずっと気になっていた。
 運動神経がよくて、一年のサッカー部ですごく上手い人がいると話題になっていたという朝比奈くんが、二年になったタイミングで急に部活を辞めてしまい、それから派手な髪色へと染まっていった。いったいなにが朝比奈くんを変えたのだろう。



「身内が青年期失顔症になったから」

 少しだけ間を置いてから、朝比奈くんが声のトーンを落として答えた。


「雨村……叶乃の弟が俺より二つ上なんだけど、その頃に青年期失顔症を発症したんだ」

 当時のことを思い出すように、朝比奈くんは遠くにある夕焼け空をぼんやりと見上げながら、言葉を続ける。


「祈って言うんだけど、精神的にかなり追い詰められて、しまいには不登校になった」

 駄菓子屋のおばちゃんが言っていた〝祈くん〟は叶ちゃん先生の弟だったみたいだ。


「必死に治すために、叶乃と俺で青年期失顔症のことを勉強して、それで半年くらいしてやっと治った」

 半年という言葉に息を飲む。すっかりすぐに治る気になっていたけれど、そう簡単なものではないのかもしれない。
 そんなことを考えていると、朝比奈くんが横目で睨んでくる。


「意外とか思ってんだろ」
「……派手になっていったから、てっきり別の理由かと思って」