でもそれにも限界がきてしまった。
 心に蓄積されていた我慢がぐらりと崩れかけて、お母さんや先生に休みたいと打ち明けたんだ。

 バスケが嫌なわけではない。体育でやる分には楽しいと感じる。だけど部活としてやっていくのが、いつのまにか苦痛になっていた。

 きっとそれは人間関係だったり、部内での自分のポジションへのプレッシャーなども関係していると思う。


「人に気ぃ遣いすぎて疲れねぇの」
「……疲れた。自分が勝手にやってきたことなのにね」

 人に嫌われるのが怖くて、波風立てたくなくていい顔をしていた。次第に息苦しさを感じても、抜け出す方法がわからず、私は壊れてしまったのだ。


「でもそういう間宮に寄りかかって頼りすぎていたのは、周りの連中も問題だろ」

 心にすっと朝比奈くんの言葉が溶け込んでくる。彼は気を遣って励ますタイプではないので、邪推せずに素直に言葉を受け取れた。


「……知ったように話すなって思っただろ」

 朝比奈くんの声が急に小さくなる。

「教室で聞こえたんだよ。授業とかテストのこと、わからなければ間宮に聞けばいいって」
「そうなんだ」

 周りにとってどういう存在だったのか私自身もわかっていたので、驚きはなかった。
 私は頼られる嬉しさよりも、都合よく扱われていることが虚しくて、きっと最初から今のような立ち位置に向いていなかったのかもしれない。


「私が我慢せずに言いたいことを言えていたら、こうならなかったのかな」

 もしもの話なんてしても意味なんてない。けれど私が自分を見失わずに意見を言えていたら、発症せずに済んだのかもしれない。
 それでも周りに意見をはっきりと言っていく自分なんて想像がつかない。たとえ時が戻って同じ時間をやり直しても、結局私は今の私のまま変われないのかもしれない。


「んなこと、わかんねぇよ。青年期失顔症は誰にでもなる可能性がある病だし」
「そういえば、朝比奈くんの従姉がカウンセリングの勉強してるんだっけ?」

 青年期失顔症は小学生の頃にみんな先生から習うことなので、少しくらい知識は私にもある。
 けれど朝比奈くんのように具体的な治療法まで知らなかった。カウンセリングに行かないのであれば、今後は自分で調べないといけない。


「あー……まあ。今は一応カウンセリングの仕事もしてる」
「え、カウンセラーなの?」
「カウンセラーっつーか、養護教諭」