「裏門から出れば、たぶんあんま目撃されねぇし。それならお前も大丈夫だろ」

 私としては、今日ぐらい一緒に帰ったとしてもあまり問題ない。
 先ほどのことを杏里も常磐先輩も知っているため、目撃されたとしてもバスケ部で妙な噂は立たないはずだ。

 それでも私のことを配慮して言ってくれている朝比奈くんにお礼を言って、靴を履き替えてから裏門の出口で待ち合わせをすることにした。


 下駄箱でローファーに履き替えて、昇降口を抜けていく。
 直進はせずに校舎横のピンクと赤紫の紫陽花が咲いている細い道を通って行くと、錆びている小さな門がある。正門よりも狭く作られている裏門は、駅とは正反対なため、こちら側へ行く生徒はほとんどいない。


 まだ朝比奈くんは来ていないようなので、裏門を出てすぐ横にある電柱の横に立って待つ。異性とこうして下校することは初めてで落ち着かない気分になる。

 少しすると自転車を引いた朝比奈くんがやってきた。


「自転車なの?」
「バス混むから、めんどくせぇ」

 確かに毎朝バスは箱詰め状態だ。私や朝比奈くんが住んでいる地域は、電車にすると数分刻みに乗換えが発生してしまうため、バスで通った方が早い。
 けれどそのバスが通勤通学でかなりの人が乗車するため、毎回潰されないようにと大変な思いをしている。


「でも自転車だと足結構疲れない?」
「まあ、最初は疲れたけど。さすがにもう慣れた。バスは雨のときだけしか乗らねぇな」

 中学二年生くらいのときから、朝比奈くんは髪色が徐々に派手になり始めて、それから怖いという印象も抱くようになった。
 けれどこうして話していると、時折口は悪いけど普通だ。それなのにクラスではどうして周りに素っ気なく対応して距離をとるのだろう。


「じゃ、後ろ」
「え?」
「だから後ろ乗れって」

 自転車に跨った朝比奈くんが早くしろと急かしてくる。


「で、でもふたりのりは法律で禁止されてるし、それに私こういうの全く経験なくて」
「歩いて帰ったら、どんだけかかると思ってんだよ」
「バス停までで大丈夫だから!」
「本当にそれでいいのかよ」

 射抜かれるように睨まれて、私の体が硬直する。
 バスで帰ることに対して言われているのではない気がした。


「いつもと同じを繰り返して、気分は変わんの?」