安堵するのは彼が私の秘密を知っているからだろうか。

「やっぱりまだ体調悪いんじゃねぇの」

 私の横に立った朝比奈くんが、身を屈めて顔を覗き込んできた。
 どうして彼がと思いつつも、崩れかけそうだった精神が朝比奈くんのおかげで辛うじて一命を取り留めた。


「え、体調悪いって……? てか、なんで朝比奈がそれ知ってるの」

 杏里の上擦った声に、なにか言わなくちゃと焦燥感に駆られる。
 けれど、まるでなにも言わなくていいと言うように、私が口を開くよりも先に朝比奈くんが口を開く。


「昨日の放課後、目眩起こして倒れたの目撃したから」
「倒れた!?」

 どうして言ってくれなかったのと言う杏里に曖昧に微笑むと、常磐先輩が宥めるように杏里の肩を軽く叩いた。


「きっと心配かけたくなかったんじゃないかな。ね、朝葉ちゃん」

 嘘をついてしまうことは心苦しいけれど、この場を乗り切るために私はうなずく。


「今日は部活休んで、保健室で先生に診てもらって? 桑野先生には私から伝えておくから」
「……はい」

 朝比奈くんの救済と常磐先輩のフォローによって、私はひとまず今日は部活を休むことになった。
 不安そうにしている杏里にごめんねと謝って、体育館へ向かうふたりを見送る。


 ……部活に行かなくていい。そう思うと心が軽くなった。


「なあ。あの人、三年?」

 眉根を寄せた朝比奈くんが、ふたりの後ろ姿をじっと見つめながら訊いてきた。


「常磐先輩? バスケ部の三年生だよ」
「あの人には話してねーの?」
「話してないよ」
「ふーん」

 常磐先輩は周りをよく見てくれていて、いつも手助けてくれるような優しい先輩だ。事情を話さなくても、こうして場を丸く収めてくれた。だからこそ朝比奈くんも話したのかと思ったのかもしれない。


「悪かったな。急に割り込んで」
「ううん、助かった」

 朝比奈くんが来てくれなかったら、私はあのままどうなっていたのだろう。

「このまま帰るんだろ?」
「うん」
「じゃあ、送ってく。どうせ同じ方向だし」

 目をまん丸くしてまじまじと朝比奈くんのことを見てしまう。
 一瞬自分の耳を疑ってしまった。

 クラスの女子に話しかけられても、面倒くさそうな表情で素っ気なく返してどこかへ行ってしまうような人なのに、何故親切にしてくれるのだろう。


「また具合悪くなるかもしんねぇだろ」
「……いいの?」