〝青年期失顔症〟のことを言っているのだろう。
先ほど、朝比奈くんの友達に容姿のことを言われたとき、急激に不安と恐怖心が押し寄せてきた。
こうやって精神面が不安定になるからこそ、カウンセリングが必要とされている病なのだと思う。……けれど私はカウンセリングには行きたくない。
「お願い。そのこと秘密にしてほしいの」
「……言いふらす気はねぇけど」
その言葉にほっと胸を撫で下ろす。
朝比奈くんが口外しないと約束してくれるのなら、私がヘマさえしなければ学校の人たちにバレることはないはずだ。
「まさか親にも言ってねぇの?」
「言うつもりはないよ」
「なんでだよ」
「だって、カウンセリングに行かされるでしょ」
意味がわからないという様子で朝比奈くんが表情を険しくする。私は補足するように、行きたくない理由を挙げていく。
「カウンセリングに行くことになったら、定期的に部活も休まないといけないし、そしたら周りにも知られるでしょ。少なくとも顧問には話さないといけなくなる」
顧問と口に出して、桑野先生の顔が頭に浮かぶ。あの先生ならきっと普通にみんなの前で事情を説明しそうだ。
心の甘えだと私を叱るかもしれない。
もしくは間宮が大変なときだからこそ、みんなで助け合って乗り越えていこうとか言いだす可能性もある。
そういう絵に描いたような青春漫画みたいなことが好物な人なのだ。
「あのさ、そもそもなんで青年期失顔症になったのか、自覚ねぇの?」
「自覚?」
「発症したのって、いつ。昨日?」
「昨日の放課後のはず。昼休みに鏡見たときは普通だったから」
あからさまなため息が聞こえてきて、何故彼に呆れられなくてはいけないのかと少々苛立つ。昨日発症したからなんだというのだろう。
私が周りに合わせてしまったことが原因で発症したことくらい自覚している。
「間宮が自分の言葉を飲み込んできた今までのことが蓄積されて発症したことには変わりないだろうけど、その直前に引き金になったことがあるんじゃねぇの」
「引き金って……放課後は当番の掃除をして、それで顧問の桑野先生と話したくらいだけど」
「桑野か」
確信を得たように朝比奈くんが桑野先生の名前を口にする。
「あいつとなに話した」
「……部活のこと」
最近不調だったことを心配されて、それで私は部活が憂鬱になっている話をして少し休みたいと言った。
けれど、それは甘えだと言われてしまった。
……まさかそれがきっかけなのだろうか。