いつも険しい顔をしているから、怒っていなくても目元や口元、眉間に皺や形がついている。

重そうな瞼が垂れているのに、ギンと見開かれた黒目がちな目は真っ直ぐにわたしを射竦める。


身動きが、取れない。

半端に開けた戸を無理に押し開こうとはせずに、升野のおばあさんは両手についた杖を壁に立てかけた。


「仁美ちゃん」

「は、い……なんですか」

「拓磨ちゃん、おるよね」


水の中に溺れたときのような息苦しさを覚える。

確信めいた物言いに、はやく否定して返さないといけないのに、声が出ない。


「中に入れてくれんかね。夜は腰も痛むんや」

「上げられません。ばあちゃんもじいちゃんも、今夜はいないんです」

「ケチな子やな。美津子にそっくりや」


ふん、と鼻を鳴らしたおばあさんは玄関先に座った。

腰が痛むというのなら、冷たい石の上に座らせるのは気が引けたけれど、家に上げるのも躊躇う。

生垣もあるし、もう路地に人の気配もないけれど、玄関の明かりはつけずにおばあさんを見下ろす。

白髪が渦を巻いた旋毛だけがくっきりとしていて、生え際から徐々に薄くなっている。

うちのばあちゃんと同い年のはずだけれど、升野のおばあさんの方が余程老け込んで見えた。


「みんな、探しとるよ」

「知ってる」

「町会長さん、青筋立てて目剥いとるってきいとらんのな」

「きいてないけど、でも、想像はつく」


強面だけでも恐ろしいのに、上背も貫禄もあって、放つ威圧感は離れていても気圧されてしまうほどの人だ。

そんな人が拓磨を探している。

黙って拓磨を差し出せば、いますぐ家の外に放り出せば、まだわたしにはお咎めがないかもしれない。

一度は手を引いて連れてきておいて、今更尻込みするなんて情けないけれど、怖いものは怖い。