しどろもどろに伝えたあと、拓磨の目を見ていられなくて喉元に顔を埋める。


面影とは、記憶のままで正しいのか、それすら疑わしい。

いま、ここにいる拓磨はどこに行きたがっていたのだろう。


もう家の周りに拓磨を探す人はいない。

すぐに支度を整えて送り出せば、拓磨はその足でどこまでも行けるだろう。

そういう力を、拓磨は持っている人だ。


「仁美はやさしいな」

「やさしい人はかわいそうなんて言葉を使うかな」

「使うよ。秘するか、明かすかのちがいだ」

「そっか」


どちらがやさしいのかは、きかないことにした。

やさしさをどちらとするのかは、きっと人によって挿げ替わっていくのだろうから。


拓磨、と。

まだ冴えきった目を光から手で庇いつつ、首元を離れて呼ぼうとしたとき。


わたしと拓磨の、糸を通すほどの隙間を裂くように、インターホンが鳴り響いた。


「え……」


続けざまに何度も。間隔が短くなっていく。

嫌な汗が背筋に浮かび、拍動が激しくなる。


吸い込んだきりの息を小出しに吐き出して、拓磨のそばを離れる。

ブランケットを拓磨に被せて、そっと耳打ちをした。


「待ってて、大丈夫」


ほとんど自分に言い聞かせるように、力強く頷いて見せる。

仁美、とわたしを呼んだ拓磨の指先が背中に掠めた気がしたけれど、構わずに震える足と手で梯子を下りる。


上から窓の外を覗いて確認すれば良かった。

戻ろうかと逡巡する間にもインターホンは鳴り続ける。

戸に耳を欹てるけれど、インターホン以外の音は拾えない。


恐る恐る戸を開けると、そこには寝巻きに上着を羽織ったおばあさんがいた。